君が思うほど君はひとりになれてない
待って。ぐいと引っ張った腕は直ぐに振り払われは目を見張った。しまったと気まずい顔が一瞬だけ見えて、申し訳なさそうに彼女を見つめる。
暫くの間沈黙が保たれると、不意に彼は風のように走り抜けた。あ、とが声を漏らすよりも先に彼の姿は見えなくなり、そこには一人が残されてしまう。
「……あー」
上手く説明が出来ない虚脱感と言い様のない苛立ちが混濁して渦を巻いている。溜息をこぼすと掴んでいた右手をじっと彼女は見つめる。
パーチェが振り払うなんて初めての出来事で、予想外に自分が困惑していることに対しては苦笑せずには居られない。たった手を振り払われただけのことだ。それだけのことなのに、胸が痛い。
「ばかだなあ、パーチェ」
一人になりたくても、パーチェじゃ無理だよ。
ぼそりとは小さくつぶやいた。まるで太陽のように明るい彼の性格だ、ひとりきりになりたいといっても限界がある。どんなに彼が何かに苦しんでいても「町内一の人気者」とだてに歌われていることはある。道行く先で「パーチェはどうしたの?」と聞かれているのだから、「孤独」なんて言葉は恐らくきっとパーチェとは無縁に等しいだろう。
「一人になんて、なれないよ。させてくれないよ、皆が」
後、私が。
付け加えるように言った言葉は誰に聞かれるわけでもなく、虚空に消える。
は振り払われた手をじっと見つめていたが、それを拳に変えてずんずんと歩き出しやがては走りだした。彼女の足では追いつけないかもしれない。それでも、放ってはおけない。
かけ出した気持ちに引っ張られるように足が自然と駆け足になり、既にそこにいない男を追いかける。
「パーチェ、こらぁ、待てー!逃げるなー!」
館から島一帯にまで響きそうなほどの大声で、追いかけてくる彼女に反射的にパーチェは逃げ出し盛大な鬼ごっこが始まり、終いには島全土を巻きこんでしまい、最終的に揃いも揃って「懺悔」をさせられる羽目になったのは言うまでもない。