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たったひとつの触れる方法

夕闇の中で、龍馬とゆきが立っていた。
チナミが引っ張るものだから足がもつれて、息が途切れる中でどうにかこうにか彼女は到着できたことに安堵する。
が来たことに随分と龍馬は驚き、と嬉しそうに彼女の名前を呼んだ。

「お前さん、遅いぞ!全くお嬢と俺はお前に話さなきゃならんことが山盛りだというのに!どこに行ってたんだ?」
「中岡さんに会って、怒られて、小松さんに会って、笑われて、チナミくんにあって叱られてました」

いうことは間違っていないがその説明の仕方は何処か可笑しくて、思わずチナミは「俺は叱ったわけでは……」と慌てて言葉を遮るが、龍馬はどこ吹く風で彼女の言葉に噴き出して笑った。
普段真面目ながこうも連続して色々な人間に怒られるなんてことも珍しい。
彼の横で「さんが?怒られるの?」ときょとんとした顔でゆきがを見つめている。
相変わらずの表情なのでは苦笑を浮かべて「私も未熟者ということです」と腕を組んで返事を一つ。

「そうだぞ、お嬢。はまだまだだ」
「……なんですかね、龍馬さんに言われるとすんごい腹立たしいんですが」

人のこと言う前に自分自身がちゃんとしてくださいよ、そこは。米神を抑えるにいつも通りにすまんすまんと龍馬が謝る。
何てことのない雰囲気だ。このやり取りはもう何度も見てきた。
チナミは先程までのためらっていたの姿が見えないことに驚き、ゆきはそんな二人を暖かく見守っている。

「ほんと、あちらに行ったら私は居ないんですからね、シャンとして下さい、シャンと!」
「なあ、ほんっとおに帰らないのか?」
「帰りません」

彼女の即答に龍馬とゆきは思わず驚いた。
微塵の迷いもないということだ。彼女は意思を秘め、ゆきと龍馬を見つめて、ふうと息をつく。

「お二人が守った世界を守るのも、ほら、私がここに来た意味にも多分きっとなるでしょうしね」
「……おふくろさんたちはいいのか?」
「よくないですよ、全然」

親のこと、友達のこと、世界のこと。
未練がないといえば嘘になる。けれど、彼らと共に戻るという選択肢は――彼女にはない。
龍馬の顔をみて、は彼へ拳をつきだした。
いつだって、相棒だった。今も、きっと。仲間で、同志で、そして兄で。
けれどそれだけではない気持ちがきっとあるけれど。

「あちらの世界でも、お元気で」
「……
「ああ、此方のことは心配しないで下さい、龍馬さんがいなくても中岡さんもいますし、チナミ君達もいるので私はどうやら職にあぶれることはなさそうです」
「おいおいおい兄がわりにそりゃあねえぜー」

こんな兄、此方から願い下げですよ、とは笑って、彼の肩を軽くぽん、と叩いた。
言いたいことはうまく伝わらないで居るのだろうし、は言葉にうまく出来る性格はしてない。
龍馬もの気持ちを察することもないだろう。
……まぁ、それでも。

「あなたが、あっちの世界でうまくやれてるかどうかはいつも心配はここからしてますよ」
「素直じゃねえなーは」

龍馬さん、なんて何年ぶりだ?と彼女の鼻をつまんで言う龍馬にはじたばたと離れ、ゆきを盾にしながら文句を言う。
ゆきは驚いていたが、の手をぎゅうと握り彼女の名前を呼んだ。

さん、色々と、本当に有難うございます。……さんがいてくれて、本当に良かったと思ってます」
「うん」
さんが此方の世界でも幸せになってくれることを、願ってます、本当に、あの」

ほろり、と彼女の瞳からこぼれ落ちる涙には苦笑した。
感受性豊かな少女だ。人形のようだと思った初見とはだいぶ違う、聖女でも何でもない、無力な、女の子のゆきを守りたいと思ったのはきっと八葉だけではないのだろう。
そういう人だから、皆好いたのかもしれない。
彼女の手を握り返し「ゆきも、達者で」とは笑った。
ついでに何とも言えなさそうな顔をしている龍馬を見上げて「龍馬さんは人様に迷惑かけないように」としっかりと釘を差した。

「……お前なあ」
「冗談ですよ。ずっと一緒に見てきたんですから、龍馬さんならあちらでもうまくやってくれると確信しています」

ゆきから離れた手を、龍馬の肩のほうへ差し出せば、彼はぱん、と彼女と手を重ねて叩いた。
いつもこうやって、出会うたび、分かれる度、手を叩き合う。彼らしい、彼女らしいやり方だ。

「お元気で、御ふたりとも」
「おい、まだ行かねえぞ」
「……あれ、私もう帰るつもりだったんですが」

ね、チナミくん。
とんだとばっちりにチナミは素っ頓狂な声を上げたので、は盛大に笑った。

「大好きですよ、突っ走って、空回って、度々お尋ね者扱いされてとばっちりにあいましたけど」
「……大好きっつー割に言ってることひどくねえか、
「そうですか?」

の笑い方に最後までお前さんには勝てんな、と龍馬は苦笑を落とした。
会話をしながら、ゆっくりと太陽が沈んでいく。唯、沈黙をしながら。誰の答えにも応えることもないまま。静かに、静かに落ちていく。

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