「なんです?」

 つい、と彼女の頬を伝うと、昔とはだいぶ異なる女性の顔をしているに勇は小さく笑った。
 誰がこんな小娘と、と突っぱねたのは数年前のことだが、数年を経てはあっという間に雰囲気を変えて、大人へと成長していく。さらり、と髪を撫でるとくすぐったいのか、それとも恥ずかしいのか体をよじる。


「おい、逃げるな」
「酔ってるんですか!」
「酔ってない」
「だって、こんなの」

 大佐っぽくない、似合わない。ばっさりと言い切ったに甘い空気というものは全くといっていいほど存在していない。
 彼女は勇のことを兄のように慕うというより喧嘩友達に近いのだろう。言えば、言い返してくる。そのやり取りが楽しいのだろう。
 だが、勇にとってはを「妹」として見ているつもりはない。女として見ているのかはまた置いておくとして、だ。


「矢張りお前はやかましいくらいが丁度いい。静かななど似合わんな」

 ふ、と笑った勇に対しては不愉快を顕にして「普段私を何だと思ってるんですか」と文句を言う。じゃじゃ馬だと言えばきっと彼女は憤慨するのだろうなと察しながらさあな、と言い残すと少し名残惜しいながらも手を離す。
まるで何事も無かったかのように階段を登り去ろうとする勇に対して、残されたはぼそりと「似合わないとか言うな、馬鹿」とまるで八つ当たりのように小さく呟いた。だが、小さく呟くだけでは満足がいかなかったのか彼女はぐっと顔を上げ、これでもかと言わんばかりに大声を上げる。

「大佐の阿呆!」
「なんだと!」
「莫迦!最低!」
「貴様、そんなに斬られたいのか!」
「女心察しなさいよ馬鹿馬鹿!」

 少しでも、近づきたいから大人びてみたのに、それをあっさりと勇が否定するのが悔しくては勇を見ないようにして廊下を逆方向へ突進していく。使用人にぶつかりそうになったのを綺麗に交わすものだから、呆れてしまう。勇がどかどかとそれを追いかけ彼女の名前を呼ぶが、は完全に勇を無視している。


「ええい、、待て!」
「……どーせ、女らしくないとか、おとなしくないとか、大和撫子じゃないですよー!」

いいです、それなら正さんに貰ってもらうからと分けがわからない事を言い、正が飲んでいたコーヒーを咽そうになったのは言うまでもなく、いつの間にそういうことになったのだと勇に問い詰められは勇の正に対する対抗心を分かった上で「大佐より正さんのほうがいい男だし気遣ってくれるし優しいし当主になるなら正さんですよね」と発破をかける。
更にそれに対して何を、と勇が激昂するのは当然のことで、結果大騒ぎ状態になってしまう。
やかましい二人に、うるさいよと雅が怒鳴り、正が耐え切れず思い切りため息を付いたのは言うまでもない。
夫婦げんかは犬も食わない、とはよく言ったものである。


この度は拍手有難う御座いました。

[2011年 10月 30日]