この度は拍手有難う御座いました。
[2011年 10月 30日]
随分と不機嫌そうに振り向いた彼女の眉間にはくっきりと皺が寄り、口はへの字に曲がっている。
それを不機嫌と言わないで何というのか逆に問いただしたいところだが、小松はただ呆れたようにため息を付いて彼女の後ろをゆっくりとついてくる。
は何ですか、とつとめて冷静に言ったつもりだが言葉の端々に棘があり、彼女が不機嫌であることをより主張している。
鶯の鳴く声が時折耳に届く。梅の花は未だ咲かない。
もう一度彼は彼女の名前を呼ぶ。腕を組み、今度はじっと彼女を射ぬくような視線で、彼女を見つめると根負けしたのか彼女は両足を止め、ぐるりと回転した。
その時、おや、と小松は何とも言いがたい違和感に気付いた。不機嫌だった表情は消え失せている。はいつもと全く変わらない態度で、姿勢よくぴん、と正してそこに立っていた。一歩近づけば、は随分と呆れたように溜息を付いて「鈍感ですね」と少し小松を睨みつけた。
くすくすと笑った小松に恥ずかしいのか顔を背けたの顔は薄紅に染まる。くるくる、くるくる。まるで季節のようにめまぐるしく彼女は変わる。
くん。もう一度彼女の名前を呼ぶと「知りませんよもう!」と言いながらも、律儀に振り返り小松を見据えてくるものだから面白い。
何度も何度もそのやりとりをして、いい加減にしてくださいと睨みつけてきた彼女の頭をよしよしと小松は撫でる。そうすればまるで落ち着くのを知っているかのように。
何度も、何度も繰り返す追いかけっこ。手に落ちたのはか、はたまた小松か。
この度は拍手有難う御座いました。
[2011年 10月 30日]