06.夫婦喧嘩

Yuichiro Sakuraba



「桜庭ってさぁ、といつからの付き合い?」
「えー、八年ぐらいじゃね?」
「あれ、八年とかそんなもんなんだ」

 もっと産まれた時から一緒とかそんなもんだと思ってた、とクラスの男子が少し意外なのか瞳孔を小さくして桜庭をまじまじと見た。桜庭はそんなもんじゃね?と首を思い切りそらして後ろに居るに呼びかけた。彼女は別の女子との談笑を楽しんでいたので唐突のパスに少々戸惑ったようだ。

「俺らっていつからの付き合いだっけ?」
「え、第二保育園の時からだから11年ぐらい?」
「ああそうか、保育園の時のもあわせるのか!」

 当たり前だろ、というクラスの男子の声がしたが、そこは彼は見事に無視して指折り数えてみる。は首をかしげて何が何だか分からず男子と、そして談笑していた友人に視線を送ってみるが二人は苦笑いで済ませてしまった。取りあえず話題に上げられたのでちょこちょこと歩み寄り、桜庭に「何?」と尋ねてみる。
 桜庭は「別に」とだけ返すと手元にあった消しゴムをコロコロ掌で転ばせて遊ぶだけで真面目に答える素振りは微塵もない。

「ちょっと、何?」
「だから何でもねーって」
「人と話をする時は目を見て話す!」
「へーへー」

 ぐぎっと鈍い音を立てたせいで桜庭は随分と痛がっていたが、は特別何か反応するわけでもなく「やれやれ」と表情を崩しながら笑うばかりだった。いつもの日常を「夫婦漫才かー今日も熱いね」と茶化す生徒の声。「違う」という全否定の声。
 特別な変化もなく、日常は通り過ぎていく。

「つーかさぁ、お前ら付き合い長いのに苗字呼びって珍しいよな」
「そーかぁ? ……14にまで女を名前呼びとか想像つかねーよ。俺が女を名前で呼ぶとしたら彼女か従妹ぐらいだって」

 昔はこいつも可愛かったんだけどなあ、とデリカシーの「で」の字すら見せない桜庭の発言にがチョップを一つかましたのは言うまでもない。


2009.10.26
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