02.弟みたいなもの

Seiji Fujishiro



「あ、誠二君だ、久しぶり」

 元気そうだね、と自転車を片手に笑顔を作る。その瞬間に少年は一瞬固まった。慌てて「ちゃんこそ」と笑顔を浮かべる。
 ジョギング用のジャージを彼は着ていた。夏休みといっても夏の大会があるせいで中々帰省できず、久しぶりの帰省とはいえ矢張り日々のトレーニングは怠るわけにはいかない。武蔵森で染み付けた当たり前のことだ。
 藤代の笑顔に自転車を止めて、はゆっくりと彼を眺める。昔は低かった身長がいつの間にやら抜かれてしまって少し彼女は寂しさを覚える。そうか、もう彼はそんな年なのか。

ちゃんは部活?」
「ううん、コンビニに買出し」
「チャリで?」
「ばーっといって帰ってくるつもりだったからねぇ。ほら、アイスだし」

 両肩を少し上下させて、は楽しそうに笑う。ジャンケンあたりで負けたのだろうか。首をかしげる藤代には「トレーニング?」とジャージを見ながら尋ねた。昔からサッカー小僧だったのは変わらないからだろう、は特に区別することもなく「程ほどにねー」と笑うだけですませて自転車を引き会話を終了させようとする。買い物もあるせいだろう。彼女は実際急いでいたし、炎天下の中で会話をするのはナンセンスだ。肌にも悪い。
 だが、藤代はその会話を中断するのを拒む。
 久しぶりに会えたのだ。勿体無い。藤代はその手を空に突き刺すが如く、挙手する。


「ね、ちゃん、俺ついてく!」
「……あなたとコンビにファミリーマートだよ? ジョギングするんじゃなかったっけ」
「いいのいいの、ほら、久しぶりに会ったし。ほら荷物もちぐらいならやるからさー」


 少し驚いたように目を丸くして、そして「有難う」とやわらかく笑った。暫く見ないうちに彼女はこんな風に笑うのだということを藤代誠二はすっかり忘れていて、不意打ちを食らったような錯覚を覚える。
 小さく芽生えた、不思議な感覚。
 どくん、どくん、どくん。

「じゃあお礼に何か一個ぐらい誠二君にお菓子を奢ってあげようかなー」
「……え、いいわけ、俺遠慮しないよ?」
「遠慮なんてしなくていいよー、私も誠一君によくお菓子奢ってもらってたし。年下の特権ってことで」

 それを何と呼ぶのか、少年はまだ知らない。
 は自転車を元の場所に戻すと、くるりと振り返った。じりじりと照らす太陽が、藤代の心境を見透かしたように射抜く。ちきしょう、と小さく彼は呟いた。自分さえ気付かない、分からないこの感情を太陽は知っているようだった。
 姉みたいな、友達みたいな、近くに住んでる、小学校に一緒に行ってくれた、「年上の幼馴染」は藤代が少し神妙な顔をしたのには気付かないで、やっぱり笑って空を見上げて「今日も暑いね」と小さく呟いただけだった。


2009.10.26
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