「なあおい」
「何」
彼女の傍らに立っていた、彼女を守る不可思議な存在を目の当たりにしてランサーは口をへの字にした。
眼の前に居る槍を持った少年は、見間違えることのない存在であり、ランサーにとって見れば思い入れも強い。
は手を少し捻り、置いてある木のベンチに音を立てて腰掛けた。自然と、彼女の傍らにいる存在はよりはっきりと見えてくる。
“彼”を、ランサーは知っている。知らないわけがない。何故なら、彼は“自分”であるのだから。
「そいつ、名をセタンタと言ったな」
「?うん」
はセタンタと顔を見合わせて首を傾げる。髪の毛の短いその少年はの反応に併せて首を傾げた。
ランサーは苛立ちから頭を抱える。……何がどうしてこうなっているのか、よくはわからない。
だが、目の前に居るセタンタと呼ばれる少年は、間違いなく幼い頃の自分の名であり――……外見こそは微塵も似ていないが、彼の魂の輝きは自分と同じ物を感じさせた。
「お前、マスターなのか」
「マスター?多分違う」
そういう大層なもんじゃないよー、とは笑いながら今しがたの戦闘を終えたセタンタに手を振ると、彼はくるりと回って姿を消す。
ご大層にルーンを仕える魔術師としての一面すら既に持っているセタンタに、ランサーは頬杖をつきながらじっと見つめる。
の話はいつだってそうだ。情報過多で頭が痛くなる。
回りくどいやり方を嫌うランサーにとってみれば、という存在は稀有で面白みこそはあるが相性は全くを持って最悪の予感がした。そして、実際のところ、相性は最悪だった。
バゼットのように戦闘をしつくすタイプかと思いきやそうでもなく、遠坂凛のように魔術に長けた人間かと思えばそうでもない。
彼女は魔術に於いては聞きなれない魔術を使う。
怪しいと思わないわけがなく、ここ数日の怪異の元凶にこの女が関わっていないという証拠は何一つとしてない。……勿論、関わっているという証拠も揃っては居ないのだけれど。
「お前が呼び出したそのセタンタは何だ?」
「セタンタって言われて思いついた私の想像するセタンタ」
「……はぁ?」
彼女の説明はどうにも分かりづらい。
呆けた声を上げれば、は少しばかりむっとしながら沢山のカードのうちからまた一枚を叩き割る。
先ほどとは違う存在だ。そして、彼もまた、ランサーにとっては思い入れの深い人間だ。いや、これは寧ろ――……。
「クーフーリン」
「お、おい」
まるで装備するように直ぐにクーフーリンと呼ばれたものは消えて、残されたはじっとランサーを見つめている。
次には目を思い切り見開いて叫んだ。
その叫び方は、ここ数日の彼女の戦い方で最も異質で、最もランサーが気になる点だ。だが、それを問いただすにしても今はそんな余裕など彼にはなかった
「ペルソナッ!」
もう一度、先ほどのクーフーリンが浮かぶ上がると彼女はその手をぐっとランサーに向けた。
「マハガルーラ!」
「うお、ちょっと待てー!」
轟々と響き渡る疾風に、ランサーは構えを直した。
全体に吹き荒れる風は魔術以外の何物でもないのだが……彼女から魔術を出している様子はない。どちらかといえば、彼女が呼び出した相手、すなわち「クーフーリン」の技に見える。
槍を構え直すと、同じくクーフーリンも構え直す。
はじっと彼を見つめ続ける。……暫く、沈黙が続いた。
しかし、が「で」とやがて口を開くと、クーフーリンも構えを直した。
「いや、だから」
「クーフーリンとセタンタと呼び出して、何がしたいの?ランサー」
「お前なぁ!」
彼女は小さく笑った。意味がまるでわかっていないランサーをまるでからかうようにしていたのだが、手で合図を交わし、クーフーリンを下げると彼女はランサーに一歩ずつ近づいていく。
「だから、私が呼び出すのは貴方であって貴方じゃない、私のイメージの「英雄」とか「神様」なんだってば」
「……それは英霊とはちげぇのか?」
「さぁ、違うんじゃない?」
原理なんて、そんなものにもわからないのだから回答の仕様がない。
困ったように笑うものだから、気が抜けて、ランサーは馬鹿馬鹿しくなり溜息を零した。気持ちのいい風が吹いて、彼の髪の毛がふわりと浮く。
そんなランサーの様子を見ながら、くくっと小さくは笑いを零した。先ほどの戦闘をしていたとは思い難い、10代の女子らしい、普通の笑い方だ。何が可笑しいのかと問えば、似てないんだもの、イメージと、と彼女は付け加える。
成る程確かに彼女の言うことは最もで、彼女の呼ぶクーフーリンと、ランサー……クーフーリンは全く異なる人物だ。それなのに魂の輝きが同じとは、不可思議なものである。
「クーフーリンは白いけど、貴方青いし」
「色かよ!」
情報は多ければ多いほどいいという。
けれど、ランサーにとって見れば目の前のの存在自体が情報過多の存在であり、彼女の口から飛び出してくる言葉の数々に翻弄されずには居られない。
何を考えているのか、何も考えていないのか。
平和というには少々物騒な発言だが、彼女の発言が面白いのでやれやれと溜息をこぼすことで話を終わらせてしまう。
「本当、お前ってめんどくせー奴だな」
そう言われて、はゆっくりと、今までで一番綺麗に笑ってみせた。