金ぴかと俺ら 2


憮然として座っている金髪男に、心底嫌そうに兄、ことはため息をついた。平穏かつ至って代わり映えしない家にとって、目の前にいるこの男は明らかに異質だった。そもそも登場からして異質であり、思い出そうとすると身震いをするのでやめておくことにする。
とにもかくにも、なぜ彼がソファーに腰掛け、自分と弟がフローリングに正座させられているのか。納得いかないが反論の余地はなさそうであり、はため息をこっそりとついた。


金ぴか貞子、と彼ら兄弟が呼ぶ男は胸の前で腕を組み、こちらを見つめてくる。凝視、に近い。


「ふむ、貴様らは魔術師ではないのか」


突然言われた言葉に彼ら兄弟は顔を見合わせた。誰が、魔術師。
そよそよと冷房機は金ぴか貞子の髪を撫ぜ、赤い目を見え隠れさせる。魔術師と言われても生憎とには覚えもなく弟もしかりであろう。はい、と挙手をしてことを述べると男は興味深そうに目を細めた。端正な顔立ちをしているのに登場シーンががっかりでは一度植え付けられたイメージは抜け出せないものなのだと内心では感じながら男を観察する。


「では我は貴様らの呼びに応えたわけではないのか」
「少なからず、俺らはあんたを読んだ覚えは微塵もないよ。……ゲームしてたし」


この男、よく見れば先ほどの乙女ゲームの敵金髪男に似ていなくはないかもしれない。ゲームから抜け出してくるという奇想天外な展開をの頭を過るが、弟のあんた、誰、という問いの解答に見事に想像を打ち砕かれた。
腹の立つ物言いではあるが偉そう……というよりも偉いのだろう。男はその言葉に含みを聞かせ、足を組み己の名を語る。英雄王、と人は語るという。


「……貞子じゃないんだ」


ぼそりと呟いた弟の言葉に思わず吹き出してしまったのは同じことを考えていたからである。
風貌はみるからに外国人のその男、ギルガメッシュは眉をぴくりと上げて彼らが名前に反応しないことが不快なのか凝視してくる。


「雑種ども、我の名を知らんのか」
「俺知らね」


話に飽きたらしい弟には頭を抱えた。
末っ子というものは何故もこうしてマイペースなのだろうか。そしてそのとばっちりは見事に兄である自分に降りかかってくるのである。案の定今こうして金ぴか貞子には胸ぐらを強く掴まれた。怒鳴られるに等しい言葉を投げかけられは心底恨めしそうに弟を見やるが彼は直ぐに先ほどのゲームに取り掛かっている。


「だから!あんたは、えっと、それ!そのゲームやってたらテレビから這い出てきたんだよ!」


もう、半ばヤケだった。
言ったところで信じないのは目に見えたがこの金ぴか貞子がやってきた時のことを見たまま言っただけだ。非現実なこの状況を非難したいのは正直いえばのほうである。それなりに大きい液晶型テレビを前に、男……ギルガメッシュと名乗った彼はより怪訝な顔をして口をへの字にしている。試しに手を画面に押さえつけてみるが、当然うんともすんとも言わない。男はに振り返ると少々子供っぽく唇を尖らせて睨みつけてきた。

「何も起きぬではないか」
「そんなこと言われても知らねーよ……」

文句を言いたいのはこちらだと言わんばかりにが溜息をこぼすと、金ぴか貞子はそうか、と言いそのままごろりとソファーに寝そべった。……帰る気はどうやらないらしい。
ぴこぴこと弟のコントローラーが動かされている音が妙に響いており、部屋は良くわからない空気で包まれていた。……いっそ夢ならいいのに。は頭を思わず抑えた。

「おい、雑種兄」
「雑種兄とか……なんだよ金ぴか貞子」
「ギルガメッシュと名乗ったであろう。覚えぬのであればその頭に刻み込むまで殴って覚えさせるが」
「……んだよ、ギルガメッシュ」

戻れる方法がわからない以上、英雄王を貴様らは饗す義務がある。我が戻れるその日まで、精々我に尽くすように。
驚くべきジャイアニズムを言い放った後、盛大に笑った金ぴか貞子……基、ギルガメッシュを他所に、は頭から鈍器で連打されたような偏頭痛に見舞われていた。

「兄貴ーこれ選択肢どっちだと思う?」
「お前は少しはツッコめよ!」

もれなく泣きそうになっているのが兄一人という状況にも、加えて泣き出したくなった。もう嫌だ、この家。

「はっはっは、嬉しくて涙も出るか!良い心がけだぞ雑種兄!」
「雑種兄じゃねーよ!ふざけんな馬鹿!」

彼のブチギレに対して、階段をどすどすと上がり扉を思い切り開いた後「静かにしなさい!」と怒鳴りこんできた母に漏れ無く兄弟揃って二度目の正座を強いられ、ついでに今しがたまで何様俺様英雄王様の態度を貫いていた金ぴか貞子……基、ギルガメッシュも正座をさせられる羽目になる。散々叱られた後、母が何事も無く戻っていったことに疑問を感じが彼に尋ねれば、何事もなかったかのように「そのように記憶を操作されたのであろう」と何事も無くさらりと言うものだから、もう漏れ無くは頭をがくりと項垂れることしか出来なかった。



家に、自称英雄王金ぴか貞子基ギルガメッシュが従兄弟として下宿が始まった日のことである。

2012.05.23