金ぴかと俺ら 1
その日、彼は至って普通だった。
何事も無く学校にいき、何事も無く授業を受け、何事も無く部活に専念。そして帰宅。
因みに夕飯はカレーで、珍しく母が人参を星型に斬るという凝った作りをしていた。食事後、英語の宿題をするにあたって全くを持って意味がわからずシャープペンシルをごろごろ転がし、退屈になった結果弟のやっていたゲームを横目で見ていた。
……これは、そんな日に起きた何処にでもある風景のはずが、全くどこにもない結果に陥った話である。
「……なあ」
「何?」
「なんでお前、乙女ゲーやってんの」
先日アニメにもなった和風女性向けゲームをプレイしている弟はカチカチとコントローラーを動かし「んー」だの曖昧な返事を返している。
この作品のヒロインはまあまあ可愛いなとは思うが三千円以上のお買い上げでこれを買うつもりはには毛頭ない。それだったら新しいシューズを買ったりだとかおしゃれに気を使ったりだとか、たまには意味のある買い物をしたくなるわけで。
ゲームならもっといいものもあるのにとは思うのだが、敢えてツッコミはいれないでおいた。
……そして、画面をぼんやり見ていると、一瞬、テレビの向こうの人間が動いたような気配を感じた。
ゲームなのだから動きがあって当然である。
「……?」
目を何度もこするが、金髪に赤目の男の食えない表情は変わらないし黒髪ロン毛の男も変わらない。見間違いだろうか。ごきごきと首を鳴らすと、ひいと小さな悲鳴が上がる。
「どうした」
「……なんか、変なのがいる」
画面の向こうから、手をかけられるとは、この時毛頭思っていなかった。
見たこともない男がずんずんと画面を横切るようにして現れ、そしてその大きな手をいきなり突っ込んできたのだ。ばん、とテレビの画面を叩くと、その手がにゅっと伸びてくる。
並んでいた弟はコントローラーを落とし、同じ画面を見つめていたは悲鳴を上げる。もれなくBGMに某ホラー映画のきっと来るというフレーズがグルグルと回っていそうな気がした。画面の向こうにいたはずの人間がこちらにくる場合、何といえばいいのか難しい。ずずず……と鈍い音を立てながら画面は揺れる。
次の瞬間、テレビから人間がはい出てきた。
恐ろしいぐらいに眩しい金髪。強張った掌。
……恐怖画面の何者でもないこの状況に、もれなくと弟は悲鳴にならない悲鳴を上げた。ゆらりと揺れるその佇まいは彼らを益々煽るばかりで、土尾兄弟は揃いも揃って涙ぐんでいたのである。
「なんだ、騒々しいぞ雑種ども」
「ひい、喋った!」
「逃げろ!お祓いしてもらうぞ!」
男の返答よりも早く、二人は一目散にかけ出していってしまった。
取り残された男は自分を完全無視されたことに怒りを覚えたが、如何せんここが何処であるのかがわからないため、とりあえず兄弟の片割れを追いかけようと扉を勢い良く開ける。ぱっと見で年上だった方が話も通じるだろう。男はふわりと身体を浮かせると音もなく消え去った。
「ぎゃー!お化けー!ひいいい触んな!ぎゃー持ち上げるなー!」
本気で怖がっているのだろう、兄であるが悲鳴を上げたのはこのあと直ぐのことである。
後、サーヴァントなる使い魔を得てしまった平和ボケし切っている兄弟と、平行世界であろう世界にテレビから這いずってやってきてしまったギルガメッシュとの奇妙な10日間の冒険が始まることとなる。