あかいあくまと俺


風がざわめく中で、兄弟の「兄のほう」であるは胡座をかいていた足を解き空を見上げている。
その隣で真っ赤なコートを着た少女は退屈そうに彼の動きを眺めている。
曰く、彼女は魔術師だという。魔法使いってすげえと妙なテンションでうきうき話す弟の興味はあっという間に町中……というかセイバーだとか、外のものにいってしまったので、仕方なしにこうして2人、留守番をしているのである。

衛宮邸は静かだった。出払っているせいもあるのだろう、室内でコートを着るのはいかがなものかというの疑問も凛の耳には届いていたが、あっさりと無視されてしまう。
そもそも、と凛は余りしゃべる機会もなかった。実質彼は何かとギルガメッシュに振り回されていたし、凛は凛での弟及び彼に目をつけられたアーチャーのお目付け役に等しい形で振り回されている。
故に、2人揃ってこの様に並んでいることなんて初対面から早数日経った現在でも、もしかしてもしかしなくても初めてのことだ。


「……ねえ」


暫くの沈黙の後、声をかけたのは凛が先立った。は身体を起こしながら何、と尋ねると気まずさに耐えかねたのだろう。体育座りをしていた足をほどいて彼女は頬杖をつきながら「退屈よね」と呟いた。
それは彼らの状況を示すのには十分であり、またどう話したらいいのかと探っている状態のの心をほぐすには十分だった。
異世界の人間。そんな彼女たちがどんなものかと構えてはみたものの、遠坂凛は見るからに「普通」だ。精々服装が真っ赤であるとか、その長い髪の毛を折角なのだから下ろしておいたほうが可愛いのではないだろうか、そんな気持ちでいっぱいだった。もちろんそれら全てを言葉にすることはなく飲み込んだものではあるが。
衛宮士郎曰く、「あかいあくま」であるらしいが、とてもじゃないがからすれば彼女は「悪魔」には見えない。


「退屈よね、君」
「あ、うん。暇だな。お茶でも淹れるか」
「そうね、お茶でもしながら話しましょう」

遠坂凛の笑顔は可愛らしい。外見の整っている女子は周りに何人かいたが、彼女たちとはタイプの違う女性に思いがけずはどきりとしながら台所にある茶葉を引っ張りだした。日本茶より外見的に紅茶のほうが恐らく遠坂凛は飲み慣れていそうだが、緑茶が飲みたかったのでやかんで水を沸騰させるのを待ちながら冷蔵庫を開ける。
暫く居候をするということで侘びの一品くらいは出して置かなければならないだろうと先日近場で買ってきた3500円もする羊羹。弟と揃って2本買ったにもかかわらず、ほぼ1人でぺろりとセイバーが食べてしまったので、士郎が仕舞いこんだのである。……だが、まぁ、自分たちが食べるのならばいいだろう。少し切って皿の上に並べた後に緑茶を入れると凛は嬉しそうに目を細めた。
猫のような少女だ、とは彼女に対して思う。

「凛って、3年生だっけ?」
「そうよ、衛宮君と同じ」
「ふーん……受験勉強とかってやっぱすんの?」

彼の口からこぼれ落ちるものは、どれもこれも当たり障りもない会話だった。当たり前といえば当たり前の多感である高校生の発言だったが、凛の言葉にしょんぼりと頭を下げる。
それはそうだ。頭の構造が違うのだから、留学をする凛とこれから受験をするでは何もかもが違う。がくりと頭を下げた彼に彼女は茶を啜りながらぽんぽんと肩を叩く。励ましてくれているのだろう。顔を上げると、端正な顔がにこりと笑ってみせた。

「それで? あの金ピカをどうやって手懐けたのよ?」
「……手懐けた?誰が?振り回されっぱなしなんだけど」

アンタ達兄弟来た時アイツ嬉しそうだったじゃない。彼女曰く、そういった様に見えるらしい。
は黙々と振り返ってみるが、実際手懐けたかと聞かれれば間違いなくノーだ。首をかしげて「どこが」と聞くと凛は呆れたように空になった湯のみをテーブルに置いた。


「まぁ、騒がしくないからいいんだけど」
「とばっちり食らうから、凛たちがなんとかしてくれよ」
「嫌よ。お金の匂いがいつもしてて悪くはないけどね」
「……もしかして、強欲?」

だまらっしゃい。
べちんと彼女が容赦なく額を叩いたので小さくは悲鳴を上げた。
後に衛宮邸にやってきた幼い金ピカ少年(曰く、何故か小さいらしい)は随分と穏やかな表情でに挨拶を交わして見せた。




2012.07.21
*54様「金ピカと俺ら主人公と凛。友情でも恋愛でも」