星屑が往く先に

きらきら、きらきら。
掌から落ちる、光る欠片をは無言で見送っていく。命の砂とはよくいったもので、彼女は自分の命の残りを頭の中で計算し続ける。

「アンタも物好きだな」

口笛を吹く青い髪の男は軽い物言いだ。
彼曰く、主の命のリミットは限られており、聖杯を手に入れなければ主は死ぬのだという。
にわかには微塵も信じ難い話ではあるが、なるほど。彼の瞳はすべてを訴えており、必死である。

はその話を聞きながら、自分が死ぬことと彼のマスターが死ぬことのどこに共通箇所があるのか考えて見たが、死ぬ、ということしかイコールにならなかった。
死ぬということに対して恐怖がないかと聞かれれば否だ。体を巡回するシステムがエラーを起こし、の身体が止まることを拒絶している。なにより彼女はまだまだ死ぬわけにはいかない。

「へぇ、アンタもなかなかいい女なんだな」
「それは」

……どうも、と彼女が男に対して言った言葉は照れ隠しでも自負でも無く、随分と静かなもので、捉えにくい無表情の中男は僅かに彼女の手が揺れたのを見た。
肩肘をはっても16.7の小娘ができる覚悟はたかが知れている。サーヴァントも持たない、魔術師でもない彼女の持ちうる力は人知のそれとは異なる。が背負うには、余りにも重たい。
親の泣く姿など想像したくもないなあとぼやきながら、彼女は一瞥した。

「貴方が私を殺すの?」
「アンタには恨みなどないがな。彼奴の為だ」

あいつ、が誰かは分からなかったが、恐らくは彼のマスターのことだろう。
随分と懐かれているその主との関係を聞いてみたいような気がしたが、は静かにふぅん。とだけ呟いた。残念なことに彼は見逃してはくれないようだ。
さらさら、命の砂が落ちていく。

「ランサー」と、男は自分の名前を名乗った。恐らくは偽名だろう。彼の名など彼女は知らないし興味もあまりない。彼の名を呼び、槍にふれる。……彼女の体は指先からまた、砂になる。光の粒に混じり透けていくのを漠然と見つめ、は彼に語りかける。

「死にたくない」

けれど、彼女は死ぬ。静かな世界の中で、誰に看取られることも無く、形も無く、粛々と。
生きていたいと泣きもせず怒りもせず言うにランサーは飽きれた。
もう少し執着するのならば形にすれば良いものを、彼女は言葉以外は淡々と表情すら変えない。

「ならば、俺を恨め」
「貴方が私を殺さなくても、私は死ぬ」

彼女の瞳は宵闇に輝く星へ注がれている。哀れな女であるとランサーは思ったが、同情はしない。怨恨のない彼女は自分が存在できないことを残念に思うことは口にしても怨みは口にすることはなかった。
話している間に、彼女の体は次々と歪な光の砂になっていく。細胞が消えていく。存在が消えていく。

「例え、明日終わる命だとしても、私はまだ、死にたくなどない」
「そうかい」
「……ああ、でも、少し、残念かもしれない」

明日終わる命だとしても、明日もきっと死にたくないって私は言うのだろう。
彼女は今までで最も楽しそうに呟いた。鈍い身体を貫く音と共に、さらさらと身体が砂になっていく。

崩れ落ちる彼女の身体を彼は抱きとめた。/手離した。
そこに彼女はまだ会ったから。/もう彼女という存在ではなかったから。

「ほーんと、良い女には縁が無いな、俺も」

彼女の頭だったものを、まるで撫でるかのようにぽん、ぽんと叩いて彼はするりと姿を消した。

……宵闇の中で、星屑だけが静かに輝き続ける。


2012.06.09