戦闘バカ注意報発令中
「わー馬鹿馬鹿どけどけ危ないって!」
アヴェンジャーにそう言ってくる「人間」は多分きっと、彼ぐらいだろう。
刀をがきんがきん言わせて何だかわからない敵と闘いながらこっちに来る。人間なのかサーヴァントなのかと聞かれれば間違い無く前者だ。
「悪い、へーきかアンタ!」
「あーおう」
人間凶器と普段一緒に過ごしているせいだろうか。
彼の反応が至ってまともに見え、アヴェンジャーは目からうろこだった。
だが、和んでいる他所で男に牙が相変わらず向けられる。犬、ではなかった。黒い得体のしれない何か。この世全ての悪であるアンリマユではない。何日もループし続けて形を変えた自分でもなかった。
彼の相手にしているものは――なんだ、あれ。
「ちょっと悪いんだけどさ、アンタ足止めしてくれ!」
「は?!」
「ワリィな!」
人の話を聞かないらしい。男はしゃがみこむと何やら印らしきものを踏んでいる。
乗りかかった船で、且つ元が「衛宮士郎」であるせいだろうか。基本お人好しなあの男のせいで、アヴェンジャーは気づけば男をかばうようにして、何だかわからないものと戦いをはじめる。
男は何をしているのかといえば、相変わらず印を踏んでいる。
「オンキリキリ・ウン・ハッタ・ソワカ……おいアンタ伏せろ!」
「は? おい先に言えよ!」
光がいくつもの形になって敵に向かっていく。危うくアヴェンジャーに当たるところだったが、男は余り……というか全く気にしていない。
持っていた数珠らしきものをじゃらじゃら鳴らし、どうだ、と叫ぶと、その何だかわからないものはあっという間に収束されていく。
……やがて、ぽん、と音を立てて一枚の紙切れが落ちてきた。
「あーあ、全くもう、もうちっとちゃんと慣らしとかないとヤベーなこりゃ」
ぺらぺらの紙切れには何か漢字が刻まれている。
アヴェンジャーは顔を上げ立ち上がり、埃を払うと男に「危ないだろこら!」とまるでヤンキーのような、迫力を増した物言いをしてみる。
「あ、うん、ごめんね!」
「素直でよろしい!」
どこの漫才かわからないぐらいに軽く男は手を挙げるものだから、釣られて随分とアップテンポな会話を交わす。
男は陰陽師のだと自分の名前を名乗った。魔術師がいるのだから陰陽師の系統がいてもおかしくないといえばおかしくないのだが――……その陰陽師が何をしているのかと聞けば、彼はあっけらかんとアヴェンジャーの考えの斜め下を行った。
「あ、うん、修行」
「修行?」
「そー。さっきのやつ式神なんだけどさー暴れまわっちゃってさー、しょうがねーから俺も?一緒に、修行すっかーみたいな」
今は一時的に収まってるんだけど、また暴れだすかもね、あははー。
全くを持って笑いネタではないのだが、は笑うものだからアヴェンジャーは右手で裏ツッコミを入れたくなる。これは衛宮士郎の持っていた力なのだろうか。……そのへんは、彼にはよく分からなかった。だが、ボケ倒されるのはどうにも彼には許し難いものがある。
「げ、ヤバイまた暴れだすかも!」
「ハ?オイオイ、俺巻き込むなよぉ」
「アンタ、名前は?」
「俺?」
アヴェンジャーだよ。
そう言い放つと、は笑顔で「分かった、安倍な!名家じゃん!本家じゃん!」と全く違う返答をしてみせた。
……馬鹿の式神は、主を主と認めていないのか、もう一度盛大なまでに暴れを起こし、強大化し、最終的に倒し終え使役に成功するまでに大分労力を消費した。
人間を見ると殺したくなるのがアンリマユである。
だが、しかし、この時アンリマユは決断した。この男――は、人間ではない。
馬鹿だ。そう考えるようにしよう。
そんな件の後、度々彼は冬木市の中で暴れ回る邪念らしきものを陰陽術でふっ飛ばし、その度にアヴェンジャーを巻き込んだのは言うまでもない。
この状況下を主たるバゼット・フラガ・マクレミッツは「ご友人が出来たようで何よりです」と言い放つ上に、アヴェンジャーにとっての天敵たるカレン・オルタンシアはいつもの通りの無表情で「彼のいる騒がしい時は大抵貴方が下敷きになってるので見つけるのが楽です」と言い放ってくれるものだから、たまったものではない。
「安倍ー!お前そこ居るとまた危ないぞー!」
「くっそ、おん前態とだろ!」
「ごめんね!また失敗しちゃった!」
「ワァオビックリするぐらいにイツモノパターンデースネー!」
全く可愛げのないウインクにキモイキモイと連発しながら――それでもやっぱり、衛宮士郎のせいか。
放っておくことも出来ず、結局二人がかりで敵を倒す状況に何度も、そして多分これからも、なるのだろう。
「言っとくけどオレ、サーヴァント最弱だからな!」
「サーヴァント?ってなんだ?」
「ハァ?」
……彼の受難は、どうやらまだ続くらしい。
2012.6.4