「小島さんってさ、好きな人いるの?」
自習中に彼は持っていたペンをくるりと回すとまるでマイクか何かを扱うかのように彼女に突きつけた。
一瞬露骨なまでに嫌悪感をむき出しに有希は顔を顰めたのだが、彼はどこ吹く風でニコニコと笑っている。呑気なものだ。
「……君」
「うん」
「……楽しい?」
「そりゃもう」
悪趣味だ。
非難を浴びせようとしているのだが当人は気にする素振りもなく、矢張りニコニコと笑っていた。物好き、大雑把、適当。色々な言葉が巡るが結局彼女は押し黙り、はぁと二度目の溜息を零した。
校庭では一年生が相変わらず騒がしそうにサッカーをしていて、一年のサッカー小僧たちがああでもないこうでもないという声をあげたり「行ったぞー!」とやたら声を張っている。元気なものだ。その声に応じて「元気だねー、一年」と窓からひょっこり顔を出しは笑って呟く。
随分と話の趣旨をころころと変える人間だ。起承転結、序破急なんてものは彼にどうやら関係もないようだ。
「小島さんはさー、ちょっと明るくなったよね」
「……何が?」
「前はいっつも仏頂面で居た印象だったから」
最近日夜楽しそうで何より。うんうんと数回彼は頷くと持っていたペンをもう一度くるりと回す。随分と器用なもので、するり、するりと彼の手を滑っても最終的に右手にきちんと収まる。
「君」
「何?」
「……そこに居られると、邪魔、なんだけど」
「こりゃ失敬」
どこぞのドラマの台詞のように軽口を叩いてそっと彼は退いた。鞄の中から教科書を取り出して机の上に出す作業に有希が入ると「真面目だねー」と呑気に笑っている声がまた聞こえてくる。彼は忘れているのだろうか、もうすぐ期末考査が近いということを。
言えば恐らくはそのニコニコと向けている笑顔が一瞬にして凍り付くのだろう。そうすることはとても容易なことではあったけれど、有希はあえてしなかった。
したところで、意味が無いのだ。結局のところ直ぐまたにこにこと笑い出して「それよりさぁ」と話を繋げてくるに違いない。好きな人。思わずもう一度呟くと彼女は彼を見据えた。
「いるわよ」
「え、いるんだ」
「何、いたら悪い?」
「やー、俺に言うとは思わないし?」
は「で、誰?」と僅かに首をかしげたが、有希は舌を出して「内緒に決まってるでしょ」と小悪魔のように言いのけた。勿論、好きな人なんて上げるとすれば一人きり。兄なのだけれど。
の反応はいたってシンプルで「クラスの男子が泣くねーこりゃ」と言うものだった。少しばかり拍子抜けしたのだが、よくよく考えればはどこか他の男子ほど色恋沙汰に夢中だとかそういう面はない気がする。
「――そんなこと聞いて、どうするの」
「知的好奇心ってやつ?」
「こんなこと、知的でも何でもないわよ」
ぴしゃ、と言い放つと彼はやっぱり笑って「小島さんはそういう風に思ったことずばずば言ってる方が、あってるよ」とニコニコと笑って言った。
そんな夏が近い日のこと。
昔WEB拍手に使おうと思ってそのまま放置していたもの。
(2010.06.24)