選 抜 合 宿 大 遅 刻 で す 。


「平馬、隣空いてっか?」

「後で人来るから無理。前ならいいよ」

 即答する平馬に圭介は苦笑した。
 東海選抜の選抜合宿は想像以上にピリピリしている。
 それはそうか――なんて、思う自分も悪いのだけれど。
 流石に高校受験云々かんぬんも掛かっていることもあり昨年以上の圧倒感に思わず尻込みしてしまうのだ。
 誰にも司令塔のポジションを譲る気はないが――山口圭介、と呼ばれた瞬間に一斉に此方を敵意剥き出しの感情で睨まれたのを思い出すだけで鳥肌が立つ。
 スパイクとか隠しておかないとなー……とそんなことを考えながら平馬の向かい側に座って溜息をついた。食事時までこんなに注目を浴びるなんて思わなかった。

「平馬、その隣誰座んの?」


「あー……、今如何な訳?」

 初日早々欠席したその男を思い出しながら圭介はスプーンでカレーを掬った。 自分と同じくジュビロユースの小田千裕は二人の会話に興味があるのか少し頷いてみせる。

 

 十年に一人と言われたセンスの持ち主だとか、恐らく84年生まれの人間の中でもトップクラスの飛び出し能力――右サイドバック、言われればボランチとしての性質を持つ男。
 中学三年になりジュニアユースからユースに誰が上がるのか名が上がり始めた圭介や平馬、千裕と異なり一人一歩先に中学二年の時点でユースとして引き抜かれ、活躍を遂げている。

 高校生たちに混じり走り回るその様を見ていると思わず羨望する。
 羨ましい。
 ずるい―― そんなことを思うのと同時に彼と知り合いなのが自慢でもあるのだ。

「調子良いんじゃない?」

「――そういう問題じゃなくてさ」

「今日までユースの試合だったんだろ? 大丈夫なのか、アイツ」

 言いたいことを丁寧に千裕が代弁してくれて、ナイス!と思わず親指を立てると、平馬は首を傾げて何が?と尋ね返す。
 その返答にこいつ……とジュビロユースの二人は苦笑にも似た表情を作った。
 だが、それの直後に腹減ったぁーなんていう声がしてきて、周囲の視線が一気にそちらへと向かう。
 余りにも大声で、驚いたのもあるのだろう。


「お、今日シーフードカレーか! おばちゃーん大盛りでー」


 マイペースにカレーを頼むその様に周囲はあっけに取られるが、隣に居る監督に身体を強張らせる。
 何なんだ、こいつ。
 注目、と監督とコーチの声がして、誰もが視線を監督に視線を投げかける。
 監督は咳払いしながら「ユースの事情のほうで遅れてきた君だ」と彼を紹介していく。 人々の目が光り、シーフードカレーを山盛りにしてもらっているに注がれる。

 特にDF、左サイドバックを希望している連中の視線は釘付けだ。ポジション争いにおいて、間違いなくという存在は邪魔な存在であること違いない。

 はマイペースに笑って「よろしく」と言うと自作のシーフードカレーの歌を歌いながら意気揚々と平馬たちのほうにやってきて、何食わぬ顔で平馬の横に座った。

「遅くなったぜー……高速込んでてさー大変だったんだぜ?」

「お前なぁ……もうちょっと周囲の空気読めよ」

「やだよ、嘗められるじゃん。相変わらずだな山口」

 カレーを掬って一口口に入れて笑顔で言うに圭介は「お前、そーいう奴だもんなぁ」と苦笑交じりに言った。 疲れていただろうに大丈夫かという千裕の声にも車で熟睡してきたという はもりもりとシーフードカレーを平らげていく。

「……で?」

「ん」

「出たの?」

「おう、後半30分間だけどな」

「勝った?」

「あたぼーよ。 先輩のボレーシュートと、俺のごっつぁんゴールで2−0」

 ふぅん。

 それだけ言った後に平馬は黙々と食事をとり続ける。
 その横ではが圭介や千裕に今日は何やったんだ、とかうきうきした態度で尋ねてくる。
 
全くもって正反対の二人に、千裕と圭介は顔を併せて苦笑をして見せた。


――
 2008.02.04