苺大福疾走日和



「よう、
「……また仙道君か」

 懐かれたのは数日前だがここ数日で間違いなく数か月分の時間をすごしたような労力を使った気がするのは間違いではないだろう。
 がっかりイケメンくんこと仙道清春は偶に茶道部に顔を出すようになった。元々顔のつくりがいいからか、部員の女子は張り切るけれど、彼は胡坐をかいてだらだらしてお菓子を食べてそのまま退散していく人間だ。
 偶に七瀬くんが乗り込んできてぎゃーぎゃーわーわー騒いでいるものだから頭が余計に痛くなる。
 そんな俺の気苦労をしってるのか知らないのか、彼は本日の茶菓子である栗羊羹をもっきゅもっきゅと食べていた。

「……どったの、それ」
「お前んとこの女子がくれた」
「こらー、餌付けすんなっていったでしょー」

 ぐり、と首を回せば二年の女子が「すいませーん」とハートマークが飛びそうなくらいに言っている。美形は得をするというけど本当である。もーしょうがないなーとぶつくさいっていると仙道君がぼそっと「そういえば」と呟いた。

「お前、バカサイユに来た事あったか?」
「バカサイユ?……あーあーあー、あの派手なの」
「俺サマの根城だ!」
「へー」

 悪趣味だなぁとはいえなかった。言える訳がない。まだ死ぬのはゴメンだ。
 茶を点てながら「でもそれがどしたの」と聞けば彼曰く「ナナ」がとても最近機嫌がいいらしく、バカサイユに入り浸っているらしい。彼の言うナナというのは恐らく七瀬くんのことだろう。残念ながら俺は七瀬君とは殆ど会話をしたことがないので、仙道君に振り回されている仲間、という意識が強い。
 ただ、彼のような派手さはないので一方的な所謂片思いに近いのかもしれないけれど。
 茶を出せば「お前の茶はニゲーんだよ!」と文句をたれる仙道君は渋々茶を受け取っていた。豪快にぐっと飲み干す姿は男らしいが、本来茶は苦いものであることを彼は忘れているのだろうか。

「羊羹もっとよこせ」
「駄目」
「貧乏くせーな!よ・こ・せ!」
「い・や・だ」

 の癖に生意気だ。なんてどこのジャイアンよろしくなことをいいだして文句を言うものだから、女子がまた甘やかして「苺大福ならありますよ」と差し出す。ああ、それは俺が買ったものなのに!

「こら女子、その大福俺んだって言ったじゃんか」
「部長、駄目ですよー折角お友達来てくれたのに」
「お前は俺の母さんか何かか?!」

 地味。平凡。特徴なし。
 そんな風に言われていた頃もありました、と言いたくなる今日この頃だが、それをいっても恐らく誰もが今は否定してしまうのだろう。決して地味でありたいとかそんなことを思っていたつもりはないのだが、少し恋しい。
 静かに茶をたてて談笑して部活にいそしんでいたあの頃とはもう戻れないのだろうか。そう思ったら気が遠くなった。

、ごっそさん」
「お茶は?」
「麦茶」
「……誰か麦茶か煎茶入れてあげて」

 駄目だ、この人。本当に同い年か…。内心ツッコミを入れたいけれど結局流されている気がする。
 要するに彼曰くバカサイユにいる七瀬くんを俺に引っ張り出して欲しいらしい。要するになっていないとか、意味が分からないという意見は全て却下された。部員は総じて「バカサイユに行けばうちの部ももっと部員が増えるかも」ということらしく、正に人身御供にされるような立場になってしまった。
 小規模な茶道部である以上そればっかりは仕方がないとは思うが、部長としての立場を言わせて貰うとそれは別の人間がいくべきじゃあなかろうか。と、思うわけで。
 そんな主張が罷り通るわけもなく、緑茶を飲み終わった仙道君は俺の首根っこを掴んで「オラ、行くぞー!」とずるずると引っ張り出す。その細い腕っぷしに一体どこに力があるのか。正直羨ましい。
 そして誰か助けてくれ。そんな目で訴えても部員は全員、主に女子は仙道君の味方だ。

「……仙道くーん」
「なぁんだよ?」
「七瀬くんと俺喋ったことないんだけどー」
「知るカァ!」

 まぁ予想はしていた返しに、ちょっと泣きそうになったわけで。
 ずるずる引っ張られながら頭の中でドナドナが流れてくる。先輩頑張って、と同情的に言ってくれる女子が居たけれど彼女はどういう意味での頑張ってなのだろうか。そしてちょっと可愛かった。……男と一緒だったので残念だけど。
 ギャハハハハ、という仙道君の笑い声をBGMにしながら俺はバカサイユで何故か七瀬君と膝を詰め合わせ話をする羽目になってしまったのだ。




「……」
「……」
「あの」
「なんだ」

 七瀬君は機嫌がいいんじゃなかったのか。思わず仙道君を見ようとすれば彼は既に居ない。顔を引きつらせたがはー、と七瀬君が溜息をついたので思わず姿勢がただしくなる。
 アンタも、あいつにやられたのか。彼はそういった。アイツとはどう考えても仙道君のことで「まぁ」と相槌を打てば御互い苦労するな、と逆に労われてしまった。ああ、この人良い人だ。多分良い人だ。


「……七瀬君も、大変だね」
「長い腐れ縁だからな……」
「ははは……」

 しゃれにならない。
 互いに曖昧な笑顔を浮かべながら、揃って溜息を零すと親近感が湧いた。仙道君には振り回されるけれど、七瀬君は良い人だ。

「……あの」
「なんだ?」
「……苺大福、食べます?」

 驚いたように七瀬君は目を丸くしたが直ぐに柔らかく笑って「ああ」とだけ言った。
 ヴィジュアル系には無縁だったけれども、七瀬君はとても良い人なので取りあえずヴィスコンティの曲だけは聞いてみようという結論に至った日のことである。

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