卒業デイズ


「いやー、もう卒業かあ、はええなあ」

切なさから涙が溢れ出しそうな女子を横目に随分とテンション高く、そしてしみじみとは言い放った。何を彼はけろっとしているのだろう。ついでに言えばアルバムを開くのもいいのだが、何故自分の机で開かないのだろうか。文句を言えば「気にすんな」と笑われて終わった。やいのやいの言いながら、女子を手招きし写真を指で弾く。その女子と他三人ほどの男子と談笑をしているの写真は随分と阿呆な顔をしている印象だ。実習でのやり取りだっただろうか。アイドルコースの生徒たちの楽しそうな表情がいくつも並んでいる。ひな壇に座っての対応が見て取れる。

、そんなことより」
「あっみろよトキヤ。俺ら写ってる」
「は、あ? 私は貴方と撮った覚えなどありませんよ」

ホントホント。が指さしたアルバムの写真には確かにとトキヤが写っている。バラエティの実習だっただろうか。写真を見た瞬間にトキヤの顔から色という色が消えた。青くもない、赤くもない。真っ白だ。冷静にはそれを観察しながら、写真の中にいる過去の自分達を思い返す。そして嗚呼、と妙に納得してしまった。トキヤの左手に持っているこれは、誰がどう見ても分かる「パイ」だ。そしての手に持っているのも、全く同じものだ。罰ゲームとは言え、プライドの高いトキヤがこんな事になるなんて誰が想像しただろうか。思い返せば実に懐かしい。そして悪乗りをした自分を改めて自身「俺ってマジ命知らず」と妙にしみじみせずには居られない。確かあの時見ていた翔が悲鳴をあげていたような気がしないでもない。一緒に居た女子が「一ノ瀬君」と悲鳴をあげていたのもついでに思い出し、改めて彼が女子に絶大な人気を持っていたことに気づいた。

「そうだそうだ、この時帰りにバイト先でケーキ貰ったんだ」
「私は当分生クリームなど見たくは無かったですがね」

ああでもないこうでもないと言えば、は楽しそうに膝を叩いて笑う。そうだ、卒業すれば彼も自分もこの場所には居ない。そのことに気づき、妙に不思議な感覚に陥った。馬鹿騒ぎをしていられるのはある意味では学生の特権なのかもしれない。眼の前に居るクラスメイトの女生徒は確か別の事務所の準所属として移籍することが決まっているし、彼女の友人二人はオーディションに残れず卒業後に大学に進むという話を耳にした。
そうやって、人は大人になっていくのだろう。聖川真斗の世話係である「じいさん」と日向が呼ぶ先生も、レンの執事であるジョージもまた、学生に戻った一年間を充実したものだと笑って卒業式を迎えていた。人は、そうやっていろいろな経験をしていく。トキヤはを見るとは女子たちに囲まれながら談笑をしていた。

「……貴方って本当に馬鹿ですね」
「おいおいひっでえなー……って何、トキヤちゃん泣きそうなの?」
「失敬なことを言わないで下さい、足踏みますよ」

女子たちが涙目になりながらも、ふふ、と小さく笑っている。涙をこらえている姿は流石にアイドル候補だっただけのことはあり、可愛らしかったり、美人だ。
……改めて、この世界が厳しいことをトキヤは痛感する。幼い頃から子役として劇団にも入っていたのだから知っているのに、妙にリアルだ。……不思議と、悲しさは姿を隠していく。

「なんかこれで終わりだって思うと、しんみりしちゃうね」
「何が終わるんですか?」

ここからが、始まりでしょう。
女子に言い放った言葉に彼女たちは目をあわせて、そしてまるで打ち合わせをしたようにトキヤを見た。
次いで、はくつくつと笑って、トキヤの肩を叩く。

「でも……俺、留年しちったんだけどね」
「…………は?」

クラスの扉が開かれ、そこには日向龍也が仏頂面でを見つめている。いそいそとアルバムを閉じるとはトキヤの机に置いた。ぽかんと見つめている女生徒とトキヤを他所に龍也に近づくと「また一年お世話になります、せんせー」とは苦笑いを浮かべた。

、お前はほんっとにトラブルメーカーだな!」
「くっそおお……オファー来てたのに……」
「インフルエンザだったからってので大目に見て半年の単位って言われてるだけ有難く思え全く!」

ギャンギャンと言い合う二人を他所にクラスの面々の視線がに集中していく。確かに、制服姿の彼の片手にあるべきである筒も卒業アルバムもない。
……有無を言わさず学校をやめさせる、辞めていく人間が多い中で、留年なんてものがあることを恐らくはここにいる人間が知らなかったのだろう。は視線に気づいたのか顔を上げると、小さな悲鳴を上げた。まるで漫画のように、ゴゴゴゴゴゴ……と恐ろしく重たい音を立て、髪の毛でも逆立ちそうな程の気配がトキヤから漂ってくる。

「と、トキヤ……?」
「貴方という人は…………!」
「せ、先生、先生!助けて!」
「馬鹿野郎、自業自得だ!」

問答無用の、彼の容赦無い雷が突き落とされたのをAクラスの一十木音也は耳にしながら「ああ、トキヤのあの雷聞くのも今日が最後かー」と呑気にクラスメイト達と笑った。


(2012.04.28)

卒業デイズ / 宮野真守 Feat. SMILY☆SPIKY

■ノア様リクエスト作品