静寂transformation
「カミュ」
「……またお前か」
随分とうんざりとした様に端正な顔を歪ませてカミュは足を止めた。
プライドの高い貴公子と扱われることが多いカミュに、特別意識するわけでもなくは緩やかな足取りで彼に近づいていく。余程の自身がないと着れない真っ白なスーツに真っ白なネクタイ。自信の現れにも見える。
はさほど気にする要素もないのか、不機嫌なカミュを無視しにこやかな笑顔を浮かべてくる。
「一人?」
「……そうだが」
「セシル君とやらは?」
「知らん」
話をしてみたかったのに、と露骨に彼女はがっかりしたような声を上げて肩をすくめた。
マスターコースの中でも異風を漂わせるカミュと対になる異国の雰囲気を漂わせる愛島セシルをは評価している。カミュからすれば「愚考」に過ぎないの考えに顔を険しくするばかりなのだが、はそんなカミュも楽しいのか笑うばかりだ。
中々に相性が悪いと見せかけて存外いいのかもしれない、というのがのセシルとカミュの二人組だ。
かたや絶対凍土の地の伯爵。かたや砂漠の地の王子。対局な場所でありながら近しい二人。
の幻滅具合に呆れたのか、彼は淡々とどうせ七海春歌と一緒だろうという旨を渋々と教える。そんなカミュの姿にぶは、とは吹き出して笑った。先程からころころとよく変わる表情に何事かと顔を益々渋くさせるカミュに、彼女は至極楽しそうに笑う。理由もなく、よくもまあ笑えるものだ。
「何がおかしい」
「面白いから」
「何が」
「カミュとセシルくんとやらが」
両極端なようで、そうでもないらしい。くつくつと喉の奥で未だ尚笑いが込み上げてくるに益々彼は顔を渋めた。
この女を前にするとどうにも自分は後手に回ることが多い。露骨なまでな嫌な顔さえも、嫌味も、直球の文句も「そうだね」と笑って流すので腹が立つ。まるでボールのように地面に言葉を叩きつければバウンドして返ってくる。キャッチボールというよりもドッジボールに近いやり取りに最後は大体自分が知らぬ間に丸め込まれている。
……理解しがたい感情に、カミュの顔は益々渋くなる一方だ。はそんなカミュの顔を見てまるで出がらしだと良く分からない表現でまたケタケタと笑っている。こんな女でも仕事を請け負える程度に仕事をしているのだから、まったく世の中というものは分からない。
音楽という娯楽の一つ。それをセシルは音楽こそが至高、音楽という癒し、と表現する。良く分からない、実力も伴わらない言い方でイラつかずには居られない。
「マスターコースなんだから笑顔ぐらいすればいいのに」
「仕事でも楽しくもないのに笑えるか」
「あ、あれがセシル君とやら?」
おうい。楽しそうに手を振ったに思い切り彼は溜息を吐いた。肺活量の限界まで息を吐ききると、苛立ちは少しだけ解消されたようだ。
がセシルに手を振るとセシルは隣に居た彼女のパートナーと2,3何かを話すとおずおずと手を振り返す。その姿に満足したのかはにこにこと笑って「いい後輩ぽさそうだけどねー」と呑気に言うのでカミュは妙に腹が立った。何を言い出すかと思えば、何なんだこの女は。
「くだらない」
吐き捨てるように言い放ち、さっさと歩き出すカミュに思わず彼女は「待ってよー」と妙に察しのいい笑みを浮かべたまま、駆け寄ってきた。
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transformation:変形、変容