それは腕の中で静かに芽吹く


少しばかり不機嫌なリンドウに小さくは笑った。
自分より随分年上のこの男が不機嫌になるのは大抵理由は子どもっぽいもので、それを追求するとますます不機嫌になるから黙っておくのが一番いい。
頬杖をついて、を見てくるので仕方なしに「どうしたんですか」と尋ねれば、子供のように視線を背けられる。
手元にある羊羹はすでに彼の腹に収まっており、は苦笑いを落とした。何度か掌をじっと見つめていたリンドウが不意に彼女の腕を掴む。
羊羹の乗った卓が反転しそうになったものの片手で抑えると、がたんと音を立て、は彼の腕の中に閉じ込められた。

「リンドウさん?」
君。君、わかってやってるだろう」

何がですか。
不服で顔を上げればリンドウは物言いたそうな目で彼女を見ていたものの、その手をするりと腰に巻きつけて抱き抱えた。
急に伸ばされた手には大層驚き、声を上ずらせてリンドウの名前を呼ぶが、彼はどこ吹く風だ。

「余り、大人をからかうものではないと思うけど?」
「……近いんですけど」
「そりゃあ、近くしてるからね」

ふっと吐息がかかる。睫毛と睫毛がぶつありあいそうなほど近づくのでは慌てて彼の腕の中からもがこうとするが、腰に手が添えられている以上、動くことは出来ない。

ごつ、と頭の上に彼の顎が載せられると喉が震える音がした。

「……おや、もしかして厭じゃなかったのかな?」
「っ、リンドウさん!」
「はいはい、全く、くんは真面目だね」

ひょい、と体を避けられては心臓をどうにかこうにか抑えながら、溜息を一つ。
この人は、本当に心臓によくない。
目で訴えれば、リンドウは悪かったよと彼女の頭を撫でる。優しい手つきに改めて女性に慣れている扱いだということに気づき、はぱしんと手を払いのけた。

「あまり子供扱いしないでください」
「じゃあ君も、僕を余り嫉妬させないほうがいい」

僕は気に入ったものはボロボロにしてしまう質だからね。
くつくつと笑ってさらりと髪の毛をいじるリンドウの大人の色香にはあてられて絶句したが……やがて現実に戻り、馬鹿言わないでください、と顔を背けた。

「怒る姿も可愛いね、君?」
「口説いてるのかからかうのかどっちかにしてください!」
「おや、口説いているんだけど?……それとも、行動に移してあげようか」
「結構です」

攻守がころころと変わりながら、彼らはやり取りを幾重も繰り返した。