闇の茶話会

「……ほう、主が仕事をしている矢先で部下はのうのうと茶か」
「ああ、殿下。おかえりなさい」

 ずず、とリブの入れた苦々しい茶を何てことのない顔をして飲んでいるに思わずアシュヴィンは頭を抱えたくなる。いつもと変わらぬ、何を咎められる必要があるのだろうかと言わんばかりの表情。茶を淹れるリブはリブで少々困ったような笑顔を浮かべている。恐らくはに強要されてやったことなのだろう。
 彼の向かいの席に座ると、リブはそれを合津と言わんばかりに茶を入れる作業に戻る。はそのリブの対応と比例するかのように少々気だるげにあくびをかいた。はぁ。思わずするつもりのなかったため息をアシュヴィンはついた。


「お前の親父殿は相変わらず鍛錬をしているというのに、とんだ放蕩息子だな」
「息抜きしないと死んじゃいますし」

 休む、休む、休み、お茶する、仕事する、鍛錬する、休む、休む……。
 ペース配分を朗々と語るに八割以上が「休み」であることに誰も指摘しないのは恐らくは彼が何だかんだを言っていても蓋を開けて見れば努力を積み重ねている人間であるからだろう。アシュヴィンもまた、リブに淹れられた茶の入った湯呑を出され、口をつける。
 丁度仕事に煮詰まっていたところだ。丁度いいと言えば丁度いい。

「――まったく、リブがいないと思ったらにつかまるとはな」
「申し訳ありません、殿下。が血相を抱えていらっしゃったものですから……」
「あれ、俺そんな必死でしたっけ」

 ええ、と笑ったリブには「そうかなぁ」と何やらぶつぶつと呟いて、その言葉を最終的に「ま、いいか」という言葉でまとめ、もう一杯とその湯呑を置く。彼の飲み方は茶をたしなむというよりかは豪快に酒を煽る形に似ている。やれやれ……アシュヴィンは苦笑を浮かべ、リブの茶を口につける。先ほどのの飲んでいた苦々しい色をした茶とは違う、穏やかな花の茶のようだ。


「はい?」
「近いうち、お前に見せ場をやれる日が来そうだぞ」

 にい、とアシュヴィンは少しばかり意地悪く笑う。は何度か頭をぽり、とかくとリブに視線を配る。彼はその笑顔を崩さずアシュヴィンとの言葉に耳を傾けていた。流石は右腕といったところだろう。はその退廃しきった世界の光景に今度は配る。光のささない、荒廃した――無、に近い世界。

「――ま、殿下のために俺は剣を振りますよ」
「それなら鍛錬に戻ることだな」

 けして乗り気ではないが、はへらっと崩した笑顔を浮かべた。
 最後の一杯をごくりと一気に飲み干し、唇を手の甲で拭うと「じゃ、御前を失礼します」と軽く頭を下げそのまま背を向けた。アシュヴィンはそこに置かれた箸を一本、の耳を目掛けて投げつけた。
 がきん、と金属独特の音がすると、それは地面にたたきつけられ頗る面倒くさそうな顔をするが剣を構えたままの姿でアシュヴィンを睨みつける。

、お前はやはり根からの武人のようだ。血は争えんな」
「……そーいうのは、言葉で言ってくださいよ」
「それでは面白くないだろう?」

 ははあ、とため息をつき今度こそ歩きだしていく。アシュヴィンは非常に楽しそうにリブにのことを振り、リブはリブでそんなアシュヴィンの話に耳を傾ける。それが「仕事をしている主をよそにサボっていた部下への、ちょっとした仕返し」ということだろう。
 荒廃した世界の中で彼らはそんな何気ないやり取りを下らないと思う一方でどこか楽しく笑っていた。何が正義で何が悪か。見え隠れする嘘と陰謀とその他諸々。
 はそれを振り払うように剣を振るい、アシュヴィンはその「黒雷」と言われる名の通りなぎ倒し、リブはさらり、とよけていく。
 そうやって、日々が作られていく中で――ふとは父親のことを思った。父は、皇と父自身のようにアシュヴィンと自分になってもらいたいのだろうか。
 ……けれど、そのことに父は答えてくれはしないだろう。そして仮にそうであったとしても、無理な話だ。
 父と皇のようには天地が引っくり返ったとしてもなれることはない。アシュヴィンの性格と自分の性格は彼ら二人とは全く違う。嫌いじゃない。好きな部類の人間だとしても、父のように仕えるかと聞かれたらは返答できない。

「……俺も随分、適当な人間だよなぁ」

 呆れたように彼は笑った。