デェトは甘さ控えめに


「明日、時間をあけろ」
唐突に言われ、はぽかんと口をあけたまま硬直した。
軍帽を使用人に渡した後、制服の襟元を着崩すと彼女の向かい側に腰掛け、勇は変わらぬ態度で言う。
さらり、と黒曜石のように鮮やかな黒髪が揺れて妙に艶っぽく見えた。

「唐突ですね、また」

精一杯平静を保とうとしつつも動揺を隠しきれず、は勇を観察しながら返答をすれば、ふん、と勇は口元を歪ませて、頬杖をつきの観察してくる瞳を真っ向から向い打つように見据えてきた。
暫くの沈黙の後に、彼はゆったりと目を伏せた。
その行動の真意が掴めず、は何かを言おうとした瞬間、彼は瞳を開いた。ほぼ同じ瞬間だったため、再び沈黙が落ちるかと思ったが、彼はするするとの予想外の言葉を投げつけてくる。

「貴様の思ったように明日は過ごせ」
「それはつまり」
「この俺が付き合ってやる、と言っているのだ。有難く思え」
「……逢引ってことでいいんですか?」

それ以外に何があるというのだ。
ふんぞり返った勇の態度に、は呆れて、そして同時に頬を染めた。
随分と単純で随分とわかりにくい人。ずっと年上だというのに、ずっと年下のような雰囲気すらたまに見せる人だ。
が勇をちらりと見れば、彼は矢張り堂々たる態度で「よいな」と笑顔を作ってみせる。

(ああ、まったくをもって、この人って反則だ)

ゆっくり頷きながら、は緊張とうれしさと羞恥を隠すように、思い切りの溜息をついてやった。その溜息を伺うように彼女を見ていた勇に、彼女はきっと気づかない。

明日は、何を着ていこう。
そんなことも、少しだけ頭の中に入れつつ彼女は紅茶をすすった。