ハイカラ娘ノ井戸端話

御杜と赤い糸


「それで、なんだこの赤い糸は」
「運命の糸がこれはつながっているらしいの」
「誰にだ」
「運命の相手に」
「くだらんな、そんなことのために毛糸を買ってきたのか」
「だって面白そうじゃない、運命の糸とか」
「くだらん、そういうのは小説家が考えつくような御伽草紙にすぎん」
「御杜君、小説家じゃない」
「……」
「……あれ、なんか言ったらまずかった?」
「……どうでもいいが、毛糸猫が今持っていったぞ」
「えっ?!」
「冗談だ」
「えええ」

少しばかり彼が楽しそうに笑っていたのは多分、きっと気のせいではないと思いたい。

はると探しもの

「はる、何してるのこんな深夜に」
「はっ、様こそ……えっ、何故此方に!?」
「何故って……起きたからお水欲しくて」
「あ、あはははは……そうでしたか」
「カメラ?どうしたのこれ」
「あっ、これは、その、幽霊探したくて……」
「ユーレイ?」
「ああああの、様、お部屋までご案内いたします」
「え、あ、うん」
「……」
「……あっ」
「えっ?!」
「……今なんか通りましたね」
「ユーレイなんじゃない?」
「えっ」
「えっ?」
さまは信じていないかと思いました」
「自分の目で見ないと何とも」

は苦笑いをしながらも、そこから一歩も踏み出せずに居た。
不思議そうに見つめるはるに、本当は怖いから信じたくないんだよと言えたらどんなに楽なのだろう。
でも見えたらどんな反応を自分がするのか想像してみる。
……想像しないほうがよかったのかもしれない。

■幽霊探索するはる

ハイカラ娘と異世界


「ここで死ぬわけにはいかないんです。あの人に会わなきゃいけない」

オルタの扉が開かれる。
魔術師は面妖な顔をしていた彼女に対して笑ったが、そのまま彼女は代償に記憶を置いて飛び出していった。
カヤナ、と呼ばれたかつての王はそんな彼女に目を細めて笑い、ヴァルハラとは改めて不可思議な場所であると呟く。
何もない場所。どこでもあって何処でもない場所。それがヴァルハラ。


が目を覚ました時、そこはいつものベッドの上で、いつも見るはずの天上だ。
何も変わらない。けれど彼女は今こうして自分が「戻ってきた」ことを実感する。
何故、どうやって。ヴァルハラをわたり繋がり、そしてこの世界に帰ってきたのだが……何故戻ってきたのかは分からない。
誰かに会わなくては、と思って走りだして頼み込んでこの世界に着たはずだった。
誰かに会うことが目的だったはずなのに、誰か思い出せない。

「……誰?」

虫食いだらけの、中途半端に消しゴムで消した記憶の中に誰かがいるような気がしたが……彼女はわからないまま、目を閉ざした。
使用人が部屋にやってきて盛大に叫び声をあげたのはこれから少し後のこと。

■記憶喪失ネタ。カヌチネタです。


記憶喪失其の弐



「はい?」
「……何も覚えておらんのだな」


目を細めた眼鏡の男性に、彼女は何がですかと随分と落ち着いた雰囲気で笑った。
手に持っていたティーカップは随分と手に馴染み、昔からこれを使っていたことが分かる。
会話の相手、正は表情を変えて何故黄泉の国から帰ったのかと尋ねると朗々と彼女はヴァルハラという死者の国からここに至るまでの流れを話した。
まるでお伽草紙のような話だったため、正は不可解だとばかりに顔を渋くさせたが記憶を失いながらも死んだはずの彼女が何食わぬ顔で戻ってきたのだから、奇跡だとしか言い様がない。
真っ先に彼女が蘇ったことを知り駈け出していった勇が随分と当惑した顔で屋敷に帰ってきて部屋が荒れたのは数日前のことだ。状況としては彼女は宮ノ杜家のことをすべて忘れているようで、彼女が「何者」であるのかは覚えていても自分たちのこと、自分たちと過ごした日々はすべて抜け落ちているらしい。
それがヴァルハラでの代償だと彼女は言った。

「……そうか」
「すみません」
「いや、いい。……そのことは、大佐は?」
「大佐?」

首を傾げたに、正は益々深い溜息をついた。
実弟が泣いているのを恐らく何十年ぶりに見た。の手を握りしめて、唇を噛み締めた彼の姿は唯の男だ。
この記憶を失って空っぽになったを彼が見たらどうするのだろうか。愛せるのだろうか。
明確な答えが見当たらず、正は米神に再び手をやった。

■記憶喪失ネタその2