「それで、なんで僕のところに来てるわけ? 邪魔なんだけど」
「そうは言われても博居ないし……」
「あのねえ、知るわけないでしょそんなこと」
ばし、と雅はの顔を紙で叩いた。
普段騒々しい人間がぴたりと止むと違和感というのはこういうことなのだろう。
雅は別段が好きなわけではない。寧ろ「ゴミ」「虫」の使用人たちと同列だ。だがそんな雅の言葉をのらりくらりとまるで一反木綿のようにかわして、そして雅のところに来るのだ。
まるで意味が分からない。
弐人がテラスでああでもないこうでもないと話しているとだんだん雅も「こいつ馬鹿じゃないの」と呆れ、そしてどうでも良くなってくるのだ。
「雅」
「っていうか、お前本当いい度胸だよね、呼び捨てなんてさ」
「年下だし」
「身分ってもんあるでしょ」
知らないなぁ。飄々と彼女は笑顔を作って使用人が持ってきた紅茶を口につけた。自分だって本来なら給仕する側のくせに。雅は「自分の立ち位置もっと考えなよ、お前元・ゴミじゃん」と言うのだが、いかんせん迫力がないので彼女は右耳から左耳に筒抜けてさらり、と交わすだけで終わってしまう。
「で、お前博に何の用事だったわけ」
「洋行する前に銀ブラする約束どうするの、っていう話を聞きにきたのと、前に貸した本返してもらいに」
「はぁ?あいつ本なんて読むの」
異母兄弟の博はあまり本という印象はない。雅が腕を組みを見るがは「さぁ」とだけ返し紅茶をすする。
使用人たちの行き来する声が時折聞こえてきて、この屋敷はいつも賑やかだ。
「お前こそ、どうするの」
「何が?」
「ふぅん、しら切るんだ。僕お前に縁談来てるの知ってるんだけど」
がちゃん。カップを思わず音を立てておいてしまい、動揺を隠しきれずは「あ」と小さく声を上げた。
縁談が来るのは今に始まったことではない。いい年なのだから当たり前だ。
「……しかも、話に聞けば正の親友だって言うし?」
九十九院の紀男のことは、勿論は知っていた。この縁談が降ってきたときは「莫迦なことを」と全力で彼女も思ったものだ。
紀男のことは確かに彼女自身何年も昔から慕ってきた部分はある。だがそれは恋愛面ではないし、どちらかと言えば年の離れた兄に近い。向こうも同じだろう。紀男はの行動について咎めはしない。「怪我だけはするなよ」と笑うだけだから、ゆえには彼のことを慕っている。
そして、彼の目下今の悩みも耳にしているし、相談も受けている。紅という女性のことも勿論知っている。だからこそ、絶対にこの縁談は破断したい。
――その相談に、本当は博ではなく正に来たのにそれを雅は見抜いているようだ。
「お前みたいなのでも縁談が来るなんてね。で、どうするわけ?」
「……そもそもお互い断る流れなのは決めてるから、後は断り方なだけだけど」
は、と雅はこんどこそ鼻で笑った。くだらないことで悩むは大層滑稽に見えたのだろう。
はむ、と見権に皺を寄せるが、彼女の頬を思い切り雅は引っ張り「お前ってほんっと馬鹿だよね」と彼は笑う。ぎりぎりと痛みが増すが、彼の手は離れない。
宮ノ杜家の次男と復縁がしたいので、今回の縁談は無かったことでと言えばいいと雅は言う。その突拍子も無い発言に気の抜けた「え」という声と顔をしてみせるの顔はアホ面というのに相応しいだろう。
「そうすれば、向こうは元々婚約が上がってたんだからって引き下がるでしょ、こんなことも思いつかないなんて、やっぱりお前って馬鹿?」
「いや、そもそも、その流れで行くと」
「また復縁の話があがるかもね」
完全に楽しんでいる雅の言葉に、がくりとは肩を落とした。
結婚に対して周りが心配するのも分かるのだが、彼女はまだ「跳ねっ返りのおてんば娘」から抜け出せていない。
勿論そのことを本人も分かっているし、周囲もその目で見ている。
「それで、相談乗ってあげたんだけど」
「……何買ってくればいいわけ」
「かすていら、もしくは羊羹」
仕方ない、と言わんばかりに思い切りはため息を落とす。雅とはいつも大体こういったやり取りで始まり、やり取りで終わる。のらりくらりと交わしているつもりがどうやらそうでもないらしい。
「ちょっと、何ぼけっとつったってんのさ!さっさとしてよね」
「はいはい」
だが、まぁ、そんな日も悪い気はしない。はひっそりと隠れた自分の今後の悩みを見ないふりをして、雅に付き合いながら紅茶とお菓子を口に放り込んだ。
――
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関係における長文お題 [ 14 仲介料の請求はどこにすればいいんだい? ]