※ 博ルート・博×はる前提 ※
「…………物好きだな、貴様も」
図書室でぽつりと呟いた勇に眉間の皺をこれでもかと濃くした顔では振り返った。隣に立ってと話をしていた正は内心「また始まったか」とため息を零す。
宮ノ杜守。その存在が発覚して以降彼女はよくこの屋敷にやってくるようになっては図書室に篭り始めた。洋書に読みふけり、御杜守の書物を読み耽る。
大衆小説の新聞小説に載っていそうな悲恋物語だが、読む者を惹きつけてやまない。は彼の本ともう一冊、つい最近亡くなった作家の本を手にとっていた。
「大佐、何をそんなに不機嫌になっている」
「不機嫌ではない。だが、貴様一体いつまでここに――おい!」
は呆れながらも直ぐに本棚に背中を預け黙々と読み始めてしまう。正は仕方がないと呆れ、彼女から離れようとするが直ぐに洋書の単語が分からないのか「正さん、これは?」と彼に尋ねるのだ。
――なぜだかは分からないが、それが非常に勇の癇に障る。
何に腹立たしさを感じるのかもわからないがゆえに腹ただしい。
「お茶をお持ちしました」
「そこに置いておけ」
はるが頭を下げると、勇は「いい、そこにいろ」とはるに命を下す。は四冊の本を引っ張り、それを側にあった椅子にどさ、と置いた。御杜守の本もその中にいくつか入っている。
「どうする、持って帰るか」
「いいんですか? 是非。正様、ありがとうございます」
苛々と、勇は足を組み彼女を睨みつける。それをのらりくらりと彼女はかわした後にはるを手招きし、本の説明をする。
夏目漱石、尾崎紅葉、近年の小説家をつらつらと上げて彼女は本を並べていく。
「様」
「あ、ごめんね、夢中になってた」
「ふん、はる。そんな奴の話は聞く必要などないぞ」
正が付き合いきれんとため息を付いたのと、博がはるを見つけて図書室に飛び込んできたのはほぼ同時。
はるの周りには自然と兄弟が集まってくる。しみじみとははるの存在感の大きさを痛感して、「面白いなあ」と呟いた。
「……貴様はいつも何事もおもしろがってるな」
「面白いですからね、宮ノ杜は」
「ふん、下らん。見飽きた顔を見るだけだ」
「それが面白いのに」
はるを抱きとめた博を正が咎める声が響く。くるくる、くるくる輪を描く。
「――おい、」
「はい?」
「何か俺に本を選べ」
ええ、と心底嫌そうな声を上げたは直ぐに「あ」と気の抜けた声をあげる。
その態度に勇が何だその態度はと文句を言いながら本棚に目を向ける。ドイツ語、英語、様々な言語が並べられている中では先程どの本を取ろうとしていたのかを思い出す。
「な、貴様、これをどこで」
「以前トキ様からおすすめ頂いたので」
「あいつ……!」
奪い取ると本をが届かぬ高さの位置にしまった。
ああ、と彼女の悲鳴が聞こえたが勇はそれを無視し「くだらんことをしていないで勤めを果たせ」とぴしゃりと言い放つ。
「く……」
「はははは、まるでノミのようだな、ひょこひょこ跳ねて」
「はる、脚立!」
その声に博をぶら下げたままはるは振り返り、はい、と図書室奥にあった脚立へ向かい走りだす。
だが、は顔を上げた後、ぐ、と二段目の棚に手をかけ、体を伸ばし、爪先だった。
「絶対取りますから!」
「あ、おい、」
「え、うわっ!?」
ぐらり、と体が揺れ、重力の法則に則り彼女の体は地面に叩きつけられるべく落下していく。ついでに掴んでいた本を三冊引き連れて。
本の音とぶつかる音が響く。はるが小さな悲鳴を上げ、は目を固く閉じていたが、不思議と痛みはない。恐る恐る顔を上げると不機嫌そうな目が彼女を睨みつけていた。
「このっ――じゃじゃ馬が! 嫁入り前が何をしている!」
庇ったのだろう、彼の右腕に腕を捕まれていた。驚きながらは「ありがとうございます」と慌てて頭を下げた。
けれど直ぐに本が乱雑したことに気づき「あああああ」と悲鳴を上げ勇から離れると本を整え拾い始める。それをはるが「私がやりますので」と止めてもは拾いあげ、丁寧に埃を払った。
「――おい、」
「はい?」
「その跳ねっ返りの性格を何とかしろ!」
「な! そもそもを言えば勇さんが勝手に取り上げたのが悪いんじゃないですか。読むつもりだったのに!」
ぎゃあぎゃあと、再びすぐに騒ぎ始めた二人に正はもう付き合いきれんと言わんばかりに立ち上がり、博の首根っこを掴み、はるを連れていってしまう。
図書室では彼らの喧騒の声が響き続け、普段の静寂が姿を隠してしまう。
「大体貴様、その礼儀知らずな態度もも大概にしろ!」
「それはそれは、申し訳ありません、勇様」
「気持ち悪いわ!」
「あなたが今云ったんじゃないですか!」
最終的に千富が「お二人ともいい加減になさい!」という叱咤の声が入るまで彼らはずっと口論を続けていた。
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関係における長文お題 [ 02 つまり君は、見飽きたこの顔をこの先もずっと見てたいって? ]