un gatto nero ed un principe.


瞼の上に口づけを落とされ、は瞬きを何度かした後に顔を上げた。
さらり、と黒い髪が揺れる。緩やかに閉ざされていた瞳がゆったりと開かれて、その双眸が揺らめきの瞳とぶつかり合う。
まるで黒猫のような人だ。金色の瞳がを捉えて離さない。指先がほんの少しだけ触れると彼女はぴくりと反応をした。

「そういう顔をされると、困る」
「……させてるのは誰」
「……それもそうだ」

苦笑いをする男に、は呆れた。こんな状況下で、よくもまあクールな素振りを出来るものだ。
いつからこんなドルチェのように甘い関係になったのか正確には彼女は覚えていない。からすれば、悪友たちとはまた違う男に翻弄されているだけかも識れない。ファミリーの上層部への切り口にを選んだだけかも識れない。予想はいくらでも出来る。
彼女は男に疎く、仕事熱心であることはファミリーに長く居る人間であれば誰もが知っていること。
レナートは金貨の中でも核にあたる部分だ。カポたるデビトの重要なカード。

「甘い」
「……瞼が?」
「いや、が」

口先から出る甘い言葉は彼女に軽い衝撃を与える。耳を触り、唇を何度も何度も頬、瞼、咽喉、あちこちに触れていくものだから彼女は蕩けそうになる。

「……香水か?」
「つけてる」

くん、と首筋に鼻をつけるさまはまるで猫そのものだ。くすぐったくて、何度かぺちぺちと彼を叩けば苦笑いが響いてくる。
それだけのことなのに、彼女の背筋は粟立った。

「甘い」

蕩けそうなほどに、甘い。黒猫のように気まぐれでいて、クールなくせに時折こうも甘えてくる騎士。
彼女のものではない、騎士。心の中で少し笑えば、顔に出ていたのだろう随分と奇妙な顔をしてまじまじとレナートはを見据えている。
肩に添えられた手をするりと握り指を絡めると節々にくちづけては笑った。

「デビトが羨ましくなっただけ」
「……君でも、そういうこともあるのか」
「当たり前でしょ」

文句を言うよりも前に、口づけが再び彼女の言葉を奪い取る。
先ほどとは違うものだ。波のように寄せては引いていくそのくちづけに彼女は立っていることが出来ず、がくりと体を揺らす。片腕で彼女を抱きとめながら、レナートは彼女の肩に自分の頭をこすりつけた。
不思議と熱い。が彼の名前を呼べば、少しだけ反応が帰ってくる。

「……どうしたの?」
「……柄にも無く、喜んだ自分が悔しい」
「何が?」
「……秘密だ」

言えるわけがない。もう一度口づけを交わしレナートは彼女をぎゅうぎゅう音がなるほどに抱きしめた。
衣擦れの音が妙に響く。
ゆらゆらと、彼女の瞳には黒猫のようなレナートの髪が揺れて見えた。


2012.02.24
un gatto nero ed un principe.:黒猫と王子様