dente de leone
ふわり、ふわりと空に舞う綿毛を指先で追いかけながらデビトは大きなあくびを一つした。
眠っても眠っても眠り足りないのはタロッコの影響だろうとは知りながらも、それへの対策は最もしたくない相手に対してメンテナンスとして弱みを見せることだ。
彼の流儀に反するやり方なので、特に見せたくはないのだが……それにしたって、眠い。
寝起きが悪いことは自負しているのだが、いつもの数倍以上に眠いので、彼は再び隻眼の目を閉ざした。
やがて、風に舞い上がって甘い香りが鼻孔をくすぐる。
どのくらい眠っていたのかは分からなかったが、彼が瞳を開いた瞬間に目に入ったのは真っ白な綿毛だった。
黄金に染まる草原に、真っ白な綿毛。
識らない間に自分は異なる場所に移動していたのだろうかという錯覚を覚えながら体を起こすと、そこに一人の人間が居た。
「」
「ああ、起きたの?」
ボンジョルノ、ねぼすけ君。
変わらぬ態度の彼女からは潮の香りがした。どうせ今しがたまで海に行っていたのだろう。仕事熱心なことだ。そしてよくもまあ、飽きないものだ。ゆらゆらとぼんやりと浮かぶ彼女を隻眼の瞳を凝らして見ていると黄金に染まる花々と綿毛が風に揺れる。
粛々と、音もなく。ただ静かに。
は指先で舞い上がった花を更に上に持って行こうとして、そして失敗して綿毛が髪についていく。子供っぽい幼い表情はいつも海に出ては貨物リストを見比べ行商人と言い合う姿は息を潜めている。
女というものは不思議なもので、彼は思わず思ったことをそのまま口走った。
「ガキかよ」
「童心に帰ったっていいじゃないの、たまには」
「へーへー」
物好きな奴。薄く笑ったデビトはもう一度目を閉ざした。
寝起きが悪いはずなのに、自然と目が覚めて直ぐに話しが出来る不思議な感覚に違和感を覚えながらもう一度眠りにつく。
遠くでが「寝るなら帰ってからにしないと冷えるから駄目でしょ」とまるで母親か姉のように言うものだから、腹がたって掴まれた腕を引き寄せると重力に比例して彼女はどしん、と彼の横に落っこちた。
幸いにも彼の横は草原になっており、彼女は草がクッションとなりそれほど痛みを感じることはなかったが、随分と不服そうな物訴える目がデビトへ睨みを利かす。
「……ちょっと、そこは抱き寄せるとか助けるとかあるでしょ」
「なんで俺がンナ事シネーといけねーんダヨ、お前相手に」
「私が怪我したらどうしてくれるの」
お前が?何相手にだよ?
ぱちりと目を開いて尋ねるとの容赦のない右の拳が一撃飛んできたが、それを軽くデビトは促す。
綿毛がまだ、ふわふわと舞い上がる。彼女の髪についた綿毛を丁寧に指で弾けば、ふわり、ふわりと心許無いながらも空に舞い上がる。
「あー……平和だよナァ」
「そうね、仕事してくれたらもっと平和になるのに」
「ハッ、お前が後処理全部やってンだから問題ねえだろ」
「そんなことばっか言って。金貨のカポなんだからしっかりしなさい」
甘さが欠片もないような会話をいくつか繰り返した後、の頭をわしゃわしゃと撫でて彼はゆっくりと起き上がり立ち上がる。
彼女に手を差し出した。
その手の意味をは瞬時に察して手を伸ばす……が。
「バァーカ」
彼女が伸ばした手はすかっと音を立てて、デビトの手は上へと上がった。
一瞬何が起きたのか分からなかったが、状況を把握すると、こらあ、との叱咤が飛んでくる……が、今度は彼の手は彼女の腕を掴み引っ張り上げ、半ば無理やりに立たせる。
デビトは「帰ぇーるぞ」と言い残し、それ以上の方を向かずすたすたと歩き始める。彼の背中は妙に猫背で、丸く、の目に飛び込んだ。
……瞬間、は、音を立ててコロコロと笑い出す。
「素直じゃないね、デビト」
なんだかんだと言いながらも付き合ってくれるデビトの分かりにくい優しさは多分、知っているのは彼女が女であること、幼馴染であること、そして紆余曲折を経て今の関係に収まったからこそなのだろう。
男女の関係だなんて未だに不思議でしょうがないもので、未だに彼らはお互いに惚れた張ったの世界に自分たちの関係があるのだということを首を傾げてしまう。先に惚れたのがどちらだったのか、未だに分からない……らしい。正確にはデビトが自分が追いかけていたことを認めたがらないのと、が根負けしたのを認めないのだが、自然体で変わらぬままの彼らの関係は幼馴染ではもうない。
くすくすと笑うに立ち止まること無く「うるせ」と返すデビトに、は笑いながら寄っていく。
「ほら、拗ねない拗ねない」
「うっせ。張り倒すぞ……つーかお前魚臭っ!」
海の香りと言いなさい!ぎゃあぎゃあと騒ぎながら彼らは帰路にゆったりとついていく。
その手は、すっぽりとお互いの手で収まっている。
彼らの後ろで、ふわり、ふわり。綿毛がまた、空に舞った。
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dente de leone:たんぽぽ
*眠冬様リク「アルカナ・デビト、短編主、くっついた状態での彼ら」