Te' Alla Menta
向かい側に座ったリベルタに、彼女はどう顔を作ったらいいのか分からず困惑を浮かべた。街の中心であるアルカナ・ファミリア構成員だという話を彼から耳にしたのは、出会ってから三週間目の一昨日のことである。
アルカナ・ファミリアとはこの島の自警団であるということは耳にしていたが、いざ実在している人間と出会うとなんとも言えぬ奇妙な気持ちになるものだ。
彼のことをはあまり知らない。海が好きだということ。真っ黒のスーツを腕まくりして、大人たちに茶々を入れられながらあちこちを行き来していること。その手に持ったカットラスの腕前は彼曰く、そこそこだということ。
ちょっとだけ跳ねた金色の髪と、アイスブルーの瞳。笑うとどこか少し幼いところ。長所は多分、上げていけばいくつでもあげられる。出会っても間もないのに変わっている、それでいて明るい少年だ。
アルカナ・ファミリアについては、このレガーロ島に住んでいれば必然的に関わりあいになっていく。勿論も何人かファミリーの人間を知っている。けれど彼らは誰も彼も、リベルタとは少し違った雰囲気を持っている人たちだ。
「あのさあ、?」
「……あ、うん、ごめんなさい」
彼がファミリーの人間であるから何だと言われれば、それきりなのだが、ファミリーには不思議な力を持った人間がいるという話をは聞いており、その能力者の一人であるとリベルタから告げられた日にはもうどうしていいか分からなかった。彼と知り合ったのが三週間前。その短い時間から推測するリベルタの印象と彼は大分乖離していた。
「スティグマータっていうんだ、俺のは発動しないと見えないけど……ここ」
「おでこ?」
何もないよ。
ぺちん、とが額に触れるとリベルタは薄く笑った。見えるはずがないと先ほど言ったのにも関わらず彼女はすぐ忘れてしまうようだ。そんな談笑を繰り返して、の手にそっと触れると彼女はいたく驚いた顔をしてみせる。
「あのさ」
「う、うん」
「……ファミリーの人間とかさ、そういうのとか、なしでさ」
俺はともっと話をしてみたいって思ってるよ。彼の手はの手を強く握り締めた。余りの強さに一瞬は怯んだが、それ以上に強いリベルタの瞳に気後れしてしまう。彼の瞳は、の「今後どう接したらいいのか」という悩みをあっさりと見抜いているようにも見えた。
リベルタの名前を呼べば、なんちゃって、とおどけたように彼ははにかんで笑う。それが無理をしている笑い方なのか、純粋な笑い方なのかなんてものは容易にわかってしまい、はため息をこぼさずには居られない。レガーロ男たちは陽気であることに定評があるが、こんな時にまで「陽気ぶる」必要など何処にもないのに。というか会話内容は至ってシリアスで、それでいて何処か甘さを隠し持っている。
……話がしたい。そう言うリベルタの言葉はどこかどんな男の口説き文句よりもの心をときめかせた。
「……は?」
「私も、うん、リベルタをもっと知りたい」
何が好きで、何が嫌いで、何が目標で。そんなありきたりの、然りげ無い話しが楽しくて、はリベルタの話が好きだ。冷やしたミントティーは彼女の喉を潤し、元々の成分の効果か考えをしっかりとさせてくれた。
リベルタも釣られるようにグラスに入ったミントティーを口に含むが、独特のミントの香りからか目をぎゅっとつぶり半ば無理やりに飲み干していく。そんな姿はとてもじゃないが「タロッコ所持者」には見えない。普通の、どこにでもいる、自分と余り変わらない少年だ。
「……ガキっぽい」
「えー何だよ!もう!」
「褒めてるの」
どこがだ。
ふくれっ面をしてみせるリベルタに、はミントティーを飲みながら小さく笑った。
2012.05.11
[Te' Alla Menta:ミントティー]