本日の見せしめ:戦車の場合


恋路なんてものは人に中々説明できるものではない。
デビトからすれば恋愛なんてものはゲームの一つであり、快楽の一つであり、没頭できるものの一つでもあった。
それを幼馴染のルカは呆れていたし、パーチェはまるで気にしていないので、結論的に言うと彼らとの関係は実にデビトにとっては丁度いいものだ。
もまた、そんな男友達の間に囲まれてしまったせいなのだろう。何を言われても動じなくなってしまった。
……これは、一概に彼ら三人のみに責任を押し付けるつもりはないが、周りに居た彼らが何一つとして彼女を「女性」として扱わないことが現在も継続されているのが原因ではないかと思われる。彼ら三人が幼馴染という扱い、男友達と同じ扱いのため、が諜報部であるため……理由は様々ではあるが、せっかくの「戦車」というアルカナ能力者であっても、ファミリーのマドンナは矢張りというべきか、フェリチータその人なのである。


「は?」

お嬢様がマドンナなのは至極当然のことで道理にかなっているじゃない。
足を組みながら本日の見せしめとしてアルカナ所有者たちがぐるりと並ぶ中で、は随分と呆れたような口調で言った。

「黙りたまえ、イル・カッロ」
「ラ・ルーナ……」

いつもと変わらぬラ・ルーナの発言には口を閉口させた。ほぼ全員一致の本日の見せしめの標的が「イル・カッロ」という選択に納得が行かず、食ってかかればラ・ルーナは飄々といいのけた。
何故か。それは簡単だ。


「君がこのメンバーの中で最も勇ましいが故だ」
「……は?」

もう一度、彼女はよくわからないと首をかしげた。
足を組んで居た状態から思わず両足を揃え、意味がわからないと顔を渋めれば愚者から一人ずつ……イル・カッロの見せしめの理由を上げ始める。

「だって、今日の昼!イル・カッロはお嬢……リ・アマンティと食事に行っただろ?!」
「それが何?」
「ずるい」

識るか。
思わず口から出そうになった言葉を必死に押しとどめて、彼らの主張に耳を傾ける。
やれ、男っぽいだの、紳士だの、余計なお世話なことを言い始め、皇帝に於いては見せしめというよりも「にもう少し女性らしさを求める」発言以外の何者でもない。
単純なことだ。リ・アマンティことフェリチータともっとも親しいアルカナは誰か。タロッコが導いた先にいたのがイル・カッロだった。それだけに過ぎないことで、それが男たちの顰蹙を買った結果になった。


「……あんたたちね」
「ということで、本日の見せしめですが、以前デビトに使ったカクテルがあるのであれを呑んでもらいます」
「はぁ?!」

より敬語に、礼儀正しくなるカクテル。
既に一度経験したことのあるデビトはクククと笑うばかりで救う要素はまるでない。
顔面蒼白になりながらちょっとと声を絞り出すが、ラ・テンペランツァはにっこりと笑っているばかりで選択肢を与えてはくれないようだ。


「ちょ、ちょっと、【リ・アマンティ】の意思はどうなのよ」
「……皆気にしすぎだと、思う」
「ほら」
「……でも、【イル・カッロ】も働き過ぎ」

諜報部の女構成員として動き回っているを心配した言葉なのかも識れないが、からすればそれが「普通」であり、フェリチータの気遣いに少し苦笑を落とすしかなかった。ファミリーの深窓のお嬢様としていなかったのだから仕方が無いだろう。イル・モンドが何も言わなかったのも問題だ。だって実際「お嬢様」と親しくなるなど考えてもみなかったことである。数える程度しか居ないこのファミリーの中の、いづれはトップになる存在。それが「フェリチータ」だ。
総意見がへの粛清を。勿論、ファミリーの掟は絶対である。

差し出されたアップルグリーンのカクテルを一気に飲み干すと喉の奥が少しばかり熱く感じた。
くらりと頭が揺れ、直ぐに視線を上げると興味深そうに此方を見ているアルカナ所有者たち。
スティグマータが少し疼いたような気がして、どくん、どくんと脈拍が早くなる。


「どうですか、イル・カッロ」
「どうもなにも……」

何も、変わらないですよ。そう言いながら彼女は髪をさらりとかきあげた。
ええ、と非難の声を上げるルカにデビトとパーチェとリベルタがどういうことだとルカを見つめる。
その中でノヴァだけが沈黙し「当然といえば当然だ」と溜息を零した。


「【イル・カッロ】の日常生活は礼節を重んじてる発言のほうが多いだろう」
「つまり、飲んでも普段とそう変わらないんですよ。喋り方は多少思ったようにはなりませんが」
「……おい、イル・カッロ。その状態で仕事には出るなよ、オルソが卒倒する」
「あら、それもそうですね」

ダンテが思い出したかのように言うので、は薄く笑った。
女性恐怖症のオルソのことだ。の喋り方が変わっただけで卒倒するだろう。
普段そこまで男のように過ごしているつもりもないし、女性か男性かと尋ねられれば十人中十人が彼女のことを女性だと判断するだろう。
仕事に支障が出ることには眉間に皺をよせたが、特別何かが代わったわけでもないので一日オフが増えたということにしよう。
その仕事の分は結果として同じ諜報部であるリベルタに回るのだがどうやらリベルタ本人は気付いていないようだ。


「誰だよ、【イル・カッロ】をこんな風にさせた奴」
「それは間違いなく、お前たち幼馴染のせいだな」
「同感ですね」

棚上げする力、節制、隠者の三人に口を揃えて言う皇帝との苦笑が振りかかる。
嗚呼。
どうやらファミリーは今日も平和なようだ。