僕らの居場所 


 ひょい、ひょいと軽やかなステップでは街を行く。
 石畳の坂道は些か急ではあるが、それを諸共せずに下って行くと、道がやがて大きく開いて海が見える。
 街と、海。レガーロ島の自慢の風景の一つだ。天気がいいとそこに加えて澄み渡る青が広がる。とん、と階段の最後の一段を登り切ると気持ちのいい風が通り抜けた。

「お、じゃん!」

 ジェラートを片手に塀の上を歩いているリベルタがの存在に気づき、手をブンブンと振って挨拶をしてくる。からすれば挨拶なんてものはいらないので早く地面に降り立って欲しい。不安定な体勢で何をやっているのだと頭が痛くなるが此処で怒鳴ったら最後リベルタが落下するのは目に見えていた。
 出来るだけ急ぎ足でリベルタに近づき、見上げるとリベルタは大道芸のようにくるくると体を回らせる。

「この時間に巡回なんて珍しいなー、船の方はいいのか?」
「今日はダンテが居るからね。リベルタこそ買い食いなんて羨ましいことしてるじゃない」

 白とオレンジと赤の三色にい彩られたジェラートをスプーンですくいながら食べるリベルタに「どこのお店の?」と彼女が首を傾げれば彼は真っ直ぐ北を指さした。その指の方向を確認するとなるほど、と思わず納得した。ここから真っすぐ行ったところには昔からあるジェラテリアがある。幼い頃少ないお金を貯めてもジェラートを買った記憶が残っていた。
 リベルタは軽やかに塀を蹴り飛ばし地面に着地すると、ににこり、と笑ってみせる。

「ほら、
「え」
ランポーネと、クレーママンダリーノ
「あの店だとピスタッキオも美味しいんだよね」

 頂きます。リベルタからスプーンを受け取り一口ランポーネを口に含む。
 甘酸っぱい、同じ系統のフラゴーラとは違う特徴的な味に思わず顔が綻ぶと、満足気にリベルタは「な、うまいだろ」とニコニコ笑う。
 そろそろ剣が巡回をしている時間だが、ファミリーの人間は今のところ見当たらない。行き交う若人たちはお洒落な格好をして楽しげに笑って去っていく。そういえばここからは学校が近かったはずだ。
 行き交う子供、青年。其々が同じように鞄を持っていることが少しだけ羨ましく思えたのは内緒だ。

「どーした、
「ああ、うん、別に。ごちそうさま」
「そーかぁ? んでさ、はこのあと暇なわけ?」

 リベルタの余り物ごとに頓着しない性格がこの時ばかりは少しだけありがたかった。
 は内心ほっと一息つきながら、リベルタの問にリベルタが書類をに押し付けたことを思い出させるように一つ一つ指摘すればリベルタは「あ」とまるで抜けた声を上げてしまう。
 両肩を上下させて慣れっこだから構わないとはリベルタの頭をくしゃくしゃと撫でる。ファミリー一の元気印とはよく言ったもので、実際リベルタは書類作業よりも外に出て物事を見ていることのほうが向いているのだろう。実際諜報部を取り仕切るダンテ自身もにリベルタの書類に関しては任せる事が多い。何だかんだで親ばかだ。

「そっかー、なんか、悪いないっつも」
「そう思うなら自分で少しはやりなさい」
が教えてくれながらならやるさ」

 ジェラートを食べながら言うリベルタにはしょうがないな、と承諾する。きゃはは、とその時子供たちの笑い声が耳に届いた。
 楽しそうに学校へ帰っていく子供たちを見送りながら、はぼんやりと思う。

「羨ましいんだ」
「え」
、さっきからずっと見てるもんな」

 俺でも分かるぜ、と笑ったリベルタには見ぬかれた気まずさから思わず視線を外す。 
 ファミリーに入ったことへの後悔はないが、それでも結果として学校に行けなかったのは惜しかったと少しだけ思う。
 勉強は孤児院で教わり、ダンテに教わり、モンドに教わり、加えて家庭教師も時折来ていたが、学校というものを経験したかったというのもある。
 リベルタは「じゃあさ」と最後の一口を食べきって空っぽになった掌を差し出した。

が先生になってくれよ」
「……は?」
「俺も、学校行ったこと無いからさ。が先生になって俺に教えてくれよ」

 で、授業が終わったらジェラテリアに行ってジェラート食べて、アクセサリー見て、家に帰ろう。ニコニコと笑うリベルタに「それじゃあ今と同じじゃないの?」と呆れて言えば、彼は良いんだよ、それで、と明るく笑った。

「ほら、来いよ、せんせー!」
「わ、こら、リベルタ」

 ぐいぐいと手をつないで走りだしたリベルタに、もつれる足をどうにか走らせては彼の名前を呼ぶ。彼の手はジェラートで少しだけべたついていたが、優しさが暖かくて怒るつもりが自然と笑顔に変わっていく。
 矢張り「アルカナ・ファミリア一の元気印」というのは嘘ではないようだ。顔が綻ぶに振り返ったリベルタが「勉強がんばるぞー!」とニコニコと笑って言う。
 屋敷に戻ってが書類を学校のように黒板を使ってリベルタに説明をすると今まで教えても嫌がっていたリベルタが熱心に耳を傾け、書類に書きこみをしていく。
 そんな彼らを暖かい目でダンテが見ていたのだが、どうやら二人は気づいていないようでマーサが見つめていたダンテに「何してるんだい、ダンテ」と声を掛けた瞬間に顔を上げ、リベルタはますます笑顔になり、は恥ずかしさから顔を赤らめ其々「ダンテ」と彼の名前を呼ぶ。
 ああ、諜報部は日々成長していくな。
 心温まる瞬間を見たためかニヤニヤと笑ったダンテに「穴があったら入りたい……」と思わず頭を抱えたと今の報告を嬉々としてするリベルタは明と暗が如実に出ていた。