シエスタしよう

 庭師が丁寧に作りこんだ庭の中でシエスタをしているパーチェを見かけ、は硬直した。何をしているのだろうか、という問に対して答えてくれる人はいない。そして仮にいたとしても「シエスタ」と答えられて終わりだ。
 つい三十分ほど前まで、確かパーチェは昼食にリストランテへ行っていたはず。大好きなラザニアを食べると張り切っていたはずだが……。

「こんな所でお腹出してたらいくら春先でも風邪引くと思うけど?」

 呆れてものも言えない。しょうがないなとは自分のジャケットを彼の腹部にかけると、隣に座った。すうすうという寝息と暖かな日差しがを包み込み、自然と小さなあくびが出たが寝転がりはせずに、彼女はじっとパーチェを観察する。
 幸せそうに寝ている姿はまるで少年そのもので、どうみても二十歳を超えたようには見えない。
 さらり、と前髪が目にかかったので左手で髪を分けると「んんー」と擽ったいのか変な声があがった。

「寝首をかかれるかもしれないのに、ホント、呑気」

 棍棒の幹部兼幹部長代理という肩書きをもらっている人間とは到底思えない幼い表情と行動には何やら可笑しくてクスクスと笑う。ごろごろと寝相悪く動いてジャケットが落ちたので拾い上げて再びかけると、彼は再びムニャムニャと何かをつぶやいた。
 何とつぶやいたかまではは聞こえなかったが、きっと幸せな夢なのだろう。

「よだれ出てるよ」

 緩やかに流れる時間、騒々しいファミリーの中では想像の出来ない空間。騒がしいパーチェの静かな時間。さらさら、と揺れる髪。
 は暫くパーチェを観察していたが、眠りに付いている人間と呼吸のタイミングを合わせていたせいかうとうとと瞼が重たくなってくる。寝てはいけない、まだやることがある。そう思いながらもうつらうつらと体は重たくなるばかりだ。

「あれぇ…………」
「ボンジョルノ、ねぼすけ君」

 視界がまだ定まらないのかぼんやりと起き上がったままを見ているパーチェに、は苦笑いしつつ挨拶を交わす。けれどもパーチェは「ああ……」とだけ返すだけで、目を擦るとそのまま再び草むらに寝転んでしまった。
 慌ててが「こら」と彼を起こそうと腕を伸ばすと、予想外に腕が掴まれ引き寄せられる。重力に逆らうことなくぼすん、とパーチェの腹の上に収まると筋肉質なパーチェの体に触れた。

「後五分だけ……」
「パーチェ!」
「んー……」

 母さん。ぽつりとつぶやいたパーチェの言葉には言葉を失った。
 レガーロ男は家族愛に溢れている。マザコンだと揶揄されることも多いが、きっとパーチェも気づかないうちにその中に該当しているのだろう。は苦笑し、パーチェの腹から這いずり、胸にまで体をずらすと「ばあか」と小さくつぶやいて頭突きを一つだけ落とす。
 いつも笑っている裏側は亡くした母の思い出や、友の苦しみのためにどうにかしたいと考え込んでいるのだろう。

「少しは周り見なさいよ、ばーか」

 ゆるやかに、もまた目を閉ざす。シエスタには丁度いい日差しと、丁度いい体温と、眠り心地は悪くない。
 やがて、彼女もまた眠りに引きずり込まれてしまう。目覚めたときにはルカが随分と呆れていたもので、羞恥心と仕事の合間という理由から真っ赤になりながら逃げ出すがいたとか、その時にデビトが随分と大笑いをしていただとか。
 そんなこと、眠りを続けるパーチェは知る由もない。