| モクジ |
リモーネのいい香りに釣られて、はふらふらと彼の元へとよっていく。
トラットリアで働いている彼にとって見れば、休息の時間なんてあってないようなものである。
従者を引き連れて少女は直ぐにに気づいたのだろう、口をつけていたパニーニを離し、に手を振ってくれている。
赤毛のツインテールに黒いリボンはどこから見ても少女のそれであるにも関わらず、スーツの着用をしているのはアルカナ・ファミリアの人間であることを表しているからだろうか。
潮風が心地いいといっても、季節はもう夏に向かっており、暑いというのにご苦労なことだ。
「、休憩中ですか?」
「おー、お前らは巡回中?」
紙袋に大量のリモーネを持ったルカはフェリチータに2,3声をかけるとに「後で差し入れにでも行きますね」と言い残し機嫌よく去っていった。
「どこのパニーニ食べてるんだ、お嬢は」
「ん、あっちの、通りの」
「あーあそこのパン屋のか」
あれ美味いよなあ。
何度か頷いていると、彼女は手に持たれたパニーニと、を何度か見比べた後そっと彼に差し出した。食べろということだろうか。は静かに笑うと彼女の頭をぽんぽんと撫でて「食べなよ」とその手を彼女に戻す。
「でも、お腹空いてるんじゃないの?」
「あー、まぁ、でも賄い後で自分で作るしな。お嬢もまだ見回りあるんだろ?ちゃんと食べておけって」
二人で顔を見合わせると同時に吹き出し、は包まれていたパニーニを二つに割った。
少々いびつな形はしているものの、量の多い方をに差し出すと、彼は彼女の手からパニーニを受け取り彼女に習うようにして口に運ぶ。
チーズとハムにレタス。シンプルな中身のパニーニではあったが、流石に長いこと続けている店なだけある。さっくりと口の中に広がるたびに口元が綻ぶのを自分で感じ取った。
「美味いな」
「うん」
「……後で来いよ、お嬢。サービスしてやるから」
うん、と頷いた彼女に背を向けては歩き出す。
……口の中はまだ熱を持っていて、彼の空腹感をまだ満たしてはくれない。
休憩時間が終わり、厨房に立って仕事に勤しんでいると先ほどの主従がひょっこりと差し入れがてらリモーネパイを持ってきたので思わずは笑った。
フェリチータの片思いの相手が自分であるせいで、アルカナ・ファミリアにいる何名かの悲痛な叫びが木霊していたなど――……は知る由もなく、フライパンにバターを敷いてパスタの具を作る作業を続けていた。
2012.06.20 発売日まで後1日!
07* セプテット=七重奏
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