ややフラットなその声で、


ぼそりと喋られた声に彼女は慄き右耳を手で覆った。
葉巻の独特の香りが鼻を擽るせいで、顔をしかめていると、旋毛をぐりぐりと親指を抑え込んでくる。

「……痛いんだけど」
「うむ、そうだろうな」
「何」

何がしたいのか、ジョーリィはいつも良くわからない。
差し込む日差しを他所にティーカップに紅茶を注ぐ様は息子であるルカとよく似ている。視線を落とすとテーブルの上には幾つものクッキーが並べられている。
……これは、彼が作ったのだろうか。

「私が作るのでは不満かね」
「全くイメージができなくて辛いから、仮に作ってても言わないで」

一口放り込めば、思ったよりも香ばしい味がした。悪くはない。不味いわけではないが……。どうにも、オーブンの前で分量を測り、練り込み、作業をするというのは彼とはまるで似つかわしくない。
頬杖をつき、彼の作業を見ていると全くミスがない。
淡々と行われる動作……まるでそれを一つの作業としているせいだろうか、優雅さは皆無だ。

「食べないのかね」
「いや、食べるけど」

口に含めると先程とは味が異なっている。味が違うのかと問えばいくつか種類がある、と彼は革手袋をしたまま指しながら説明をしていく。
チョコと、プレーンと、紅茶と、コーヒーと、フラゴーラ。
そんなこだわりを持って幾つも菓子を作っているとは思っていなかったのか、。は驚きを隠せないまま彼を見上げていた。
サングラス越しの瞳と、目が合うと、彼はわずかに目を細めたような気がして、思わず何度か瞬きをしてしまう。

「――。
「あ、ああ、うん、頂きます」

予想外な程に、喧騒とはかけ離れた場所で、静かに穏やかに、時間が過ぎていく。

--
発売まで後4日