| モクジ |
薄ぼんやりとした世界を彼女は目で追いかけながら、流れてくる音楽に小さな息を漏らした。
感嘆の声を上げるよりも、ただうっとりと、その音楽に耳を澄ます。
いつからそうしていたのだろう。
いつまでそうしていたのだろう。
答えはどこにもないのだが、彼女は流れてきた音楽に魅了されたかのごとく耳を済まし、世界を見つめていた。
「カテリーナは、もういない」
「そうだね」
けれど、カテリーナという女が、そこに「存在していた」ということだけは明確に、今でも形になって残っている。
デビトは断ち切れないカテリーナへの思いを曲の中で見ているのだろう。はただ彼の側にあって、同じように音楽を聴き続けた。
彼女はきっともっと明るい曲のほうが好きだっただろうが、悲愴感のあるこの音楽は、やデビトや――そして、パーチェが持っている奥底に眠る「感情」を揺さぶり起こす。
「メソメソしてんじゃねえよ、ガキか」
「自分だって、泣き虫のくせに」
「ハァ!? 俺がいつ、どこで、泣いたっつーんだよ!」
泣き虫デビトちゃんのくせに。
流れてくる音楽に、は静かに目を閉ざす。
悼み続けることはできない。も、時間も、デビトたちも、皆が突き進んでいる中で立ち止まることはできなかった。けれど、彼女を悼みたいと思う気持ちはどこかに確かにある。
今、こうしてここにいることは、彼女の御陰でもあるのだから。
「」
「んー?」
「……そこにいろ、絶対ェ振り向くな」
流れてくる音楽は、彼女を悼み続ける。
感傷的になったのだろう、くしゃくしゃとセットをしていた髪を乱暴にかいて、彼は前髪を作ると鬱陶しそうに溜息を零した。……は、同意もしなかったが、彼の要求を拒むわけでもなく、ただ背中を預けるような形で音に耳を澄ませた。
「ねえ、デビト」
「……」
「寂しいね」
もう彼女が亡くなって何年も経つというのに、前に進んでいる筈だというのに。
はぽつりとそんな弱音を零した。……デビトの反応はなかったが、彼の背中は如実に彼女と同じ気持ちであることを表すように、どこか小さい。
「……でも」
こうして、まだ、一緒にいれるから、辛くはないよ。予想外の言葉だったのだろう。びくり、とわずかに肩が動く。
彼らしい反応に、はデビトの背中に思い切り寄りかかって「うん、きっと、多分、皆そうだよ」と自分に言い聞かせるように呟いた。
「だからさ、一緒にいてよ。これからも」
「……お前、すげー無茶ぶってるのわかってんのカヨ?」
「多分、そこそこ」
彼女の表情を彼は伺うことはできなかったが……きっととても情けない顔をしていて、きっととても柔らかい表情をしていて、彼が好きな顔をしているのだろう。
「……マ、しょーがネェし? 一緒にいてやるヨ」
きっと、彼女は笑うのだろう。
此処にはいない亡き母替わりの女を思い出して、彼ら二人は寄り添うように静かに目を閉ざした。
……寂しくはあるが、辛くはない。
背中にまだ、ぬくもりがある。悪態をつきながらも支えてくれる奴がいる。だから、大丈夫だ。
まるでカテリーナに報告をするように、静かに、ただ、粛々と。
彼らは、音が鳴り止むまで彼女のことを思い続けた。
---
ラヴェル作曲「亡き乙女のためのパヴァーヌ」をイメージ。
晩年、ラヴェルが自動車事故により記憶障害が進行してしまった際、この曲を聴いて「この曲はとても素晴らしい。誰が書いた曲だろう。」と言ったという逸話もある。
幽霊船発売まで、後5日。
感嘆の声を上げるよりも、ただうっとりと、その音楽に耳を澄ます。
いつからそうしていたのだろう。
いつまでそうしていたのだろう。
答えはどこにもないのだが、彼女は流れてきた音楽に魅了されたかのごとく耳を済まし、世界を見つめていた。
「カテリーナは、もういない」
「そうだね」
けれど、カテリーナという女が、そこに「存在していた」ということだけは明確に、今でも形になって残っている。
デビトは断ち切れないカテリーナへの思いを曲の中で見ているのだろう。はただ彼の側にあって、同じように音楽を聴き続けた。
彼女はきっともっと明るい曲のほうが好きだっただろうが、悲愴感のあるこの音楽は、やデビトや――そして、パーチェが持っている奥底に眠る「感情」を揺さぶり起こす。
「メソメソしてんじゃねえよ、ガキか」
「自分だって、泣き虫のくせに」
「ハァ!? 俺がいつ、どこで、泣いたっつーんだよ!」
泣き虫デビトちゃんのくせに。
流れてくる音楽に、は静かに目を閉ざす。
悼み続けることはできない。も、時間も、デビトたちも、皆が突き進んでいる中で立ち止まることはできなかった。けれど、彼女を悼みたいと思う気持ちはどこかに確かにある。
今、こうしてここにいることは、彼女の御陰でもあるのだから。
「」
「んー?」
「……そこにいろ、絶対ェ振り向くな」
流れてくる音楽は、彼女を悼み続ける。
感傷的になったのだろう、くしゃくしゃとセットをしていた髪を乱暴にかいて、彼は前髪を作ると鬱陶しそうに溜息を零した。……は、同意もしなかったが、彼の要求を拒むわけでもなく、ただ背中を預けるような形で音に耳を澄ませた。
「ねえ、デビト」
「……」
「寂しいね」
もう彼女が亡くなって何年も経つというのに、前に進んでいる筈だというのに。
はぽつりとそんな弱音を零した。……デビトの反応はなかったが、彼の背中は如実に彼女と同じ気持ちであることを表すように、どこか小さい。
「……でも」
こうして、まだ、一緒にいれるから、辛くはないよ。予想外の言葉だったのだろう。びくり、とわずかに肩が動く。
彼らしい反応に、はデビトの背中に思い切り寄りかかって「うん、きっと、多分、皆そうだよ」と自分に言い聞かせるように呟いた。
「だからさ、一緒にいてよ。これからも」
「……お前、すげー無茶ぶってるのわかってんのカヨ?」
「多分、そこそこ」
彼女の表情を彼は伺うことはできなかったが……きっととても情けない顔をしていて、きっととても柔らかい表情をしていて、彼が好きな顔をしているのだろう。
「……マ、しょーがネェし? 一緒にいてやるヨ」
きっと、彼女は笑うのだろう。
此処にはいない亡き母替わりの女を思い出して、彼ら二人は寄り添うように静かに目を閉ざした。
……寂しくはあるが、辛くはない。
背中にまだ、ぬくもりがある。悪態をつきながらも支えてくれる奴がいる。だから、大丈夫だ。
まるでカテリーナに報告をするように、静かに、ただ、粛々と。
彼らは、音が鳴り止むまで彼女のことを思い続けた。
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ラヴェル作曲「亡き乙女のためのパヴァーヌ」をイメージ。
晩年、ラヴェルが自動車事故により記憶障害が進行してしまった際、この曲を聴いて「この曲はとても素晴らしい。誰が書いた曲だろう。」と言ったという逸話もある。
幽霊船発売まで、後5日。
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