私の名を呼ぶG線上の響き

レガーロの人たちは皆音楽を好む。
もまた、レガーロに住まう人間として音楽を耳にすると顔を上げずにはいられない。
傍らに居たパーチェが「何かあった?」と首を傾げてきたので、どこからか聞こえてくる音楽のことを知らすと彼は耳を澄ますように目を閉ざした。

その音は、どこからか分からない程遠く、それでいて伸びやかに、達を誘っているような気さえ起こさせる。
ジェラテリアで新商品の、ジャッポネの主食を用いたジェラートを作ったという話を聞いてやって来たは良いものの、音楽を聞いてはいてもたってもられない。気になって仕方がないせいか、、もつられて目を閉ざす。
緩やかな、ヴァイオリンの音色だ。

「……どうする?、
「どうするも何も……」

思わず顔を見合わせると、パーチェはレガーロの太陽の如く、明るい笑みを浮かべた。
この男というものはどうにもこうにも、いつも笑顔で前向きで、そして大食漢であるというのに、どこかしら常識を持ち合わせている。
普段はルカやデビト、加えて自分を振り回しているというのにまるで自覚がないというのに、紳士的な一面を時折のぞかせるものだから、全くを持って目が離せない。街中の人間に愛されるのは、パーチェの人柄が物を言うのであろう。
彼の笑顔に釣られるように笑うと、パーチェは、の手を取った。

「行くしかないよね、とーぜん!」
「ジェラートは?」
「特大サイズで!」

ジェラートを受け取ると、に持たせ、彼はどんどんと彼女を引っ張り音の鳴る方へと進んでいく。
落とさないように、は手を握り、ジェラートを支えているが……片手はジェラートで冷たいというのに、パーチェから伝わる熱で、もう片方はまるで燃えるように熱い。

「あっ、でも踊るんだったらジェラート食べなきゃいけないね!、頂戴!」
「走りながら食べようとしないの!」
「食べさせてくれれば一番早いのにぃ」

ぶーぶーと文句をいうパーチェに、、は渋々とジェラートを支えていた手を差し出す。
形が崩れていないのは、彼女が支えていたが故のことだろう。

「あ、意外と甘い」
「……っ、自分の手で食べてよ!」
「だってー」

まぁいいか。と笑うパーチェに、は「全然良くない!」と声を荒げずにはいられない。
どうにも、彼はこういったことに無頓着がすぎるような気がする。頭を抱えたい気持ちを抑え、パーチェにジェラートを突き出すと、彼は舌で相変わらず彼女の手を伝いそうなジェラートを口にしていく。


「パーチェ!」
「あ、待って、食べちゃうから」
「だからー!」

彼女の主張はあっさりとパーチェに下げられて、まるで音に合わせるようにパーチェは、の手に収まっているジェラートを最後までぺろりと食べきった。
……、が口に一口も運ぶこともなく。
真っ赤になった、の手をもう一度つかみ、彼はまるで何事もなかったかのように、もう一度走りだした。

「……パーチェのバカー!」
「えーなんでー!?」

彼女の断末魔が、音楽に重なって奇妙なハーモニーを描く一方で、こんな奇妙な関係が楽しいのか、パーチェはにこにこといつも以上に楽しそうに笑ってみせた。
カーニバルはまだ、始まったばかり。

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発売まで後6日