笑って告げる
夏の音が近づいてくる。
この季節がやってくるたびには嘗て出会った少年のことを思い出すのだ。
自分に対する自信家なその態度は鼻につくながらも、靭やかな肉体美に子供ながらに「鍛え方が人と違う」ということは見て取れた。
どんな人だったか、と聞かれると覚えていない。
ただ、まっすぐの眼をしていた。
ホースから勢い良く溢れでる水を視線で追いかけながら、庭のグリーンに水をやっていく。
夏場はより雑草も出てくるから手入れが欠かせないのだが、雑草抜き程骨が折れるものもない。
は思い出を振り返りながら押し続けているホースの口をほんの少しだけ、上に上げた。
……キラキラと虹を作り上げていくそのさまはどこか美しく、そして同時に儚くも感じられる。特別何かを言うわけでもなくぼんやりとそれを見上げていると、庭の外……要するに公道に水をぶちまけていたらしい。自転車で通りすぎようとした男のシルエットに水が勢い良く振りかかる。
ぶ、という男の声は彼女を現実に引き戻すのは十分で。
加えて彼女は夢見心地な表情から真っ青に色を変えていった。
「す、すみません!大丈夫ですか!?」
「なんだよ、ったく!!」
男の驚愕の言葉に思わず身をすくめ、家にあるタオルを引っ張りだして勢い良く彼女は投げ入れた。
ばさり、とタオルは音を立てて男の頭に見事にはまった。
「ごめんなさい、その、ぼんやりしてて」
「急いでんだよ!」
「あの、本当に、ごめんなさい……クリーニング代は此方で持つので、その、申し訳ないです」
頭を下げることしか出来ないに、男は自分が虐めているような感覚に陥ったのだろう。僅かに舌打ちをした後に「もういいから」と一言だけ突っぱねた。
「ちょっと俺もぼんやりしてたし、気にすんな」
「でも」
「……このへんに住んでた奴に知り合いがいるから、そいつを探してた。だから、アンタのせいじゃない」
「……すみません」
頭を下げたに男は「あーいい、いい」とタオルで遠慮無く頭を拭いた後に、彼女に突き返す。
退屈そうに見えたつり目の瞳が、妙に彼女には綺麗に見えた。
どこかで見たような、そうでもないような。
鍛えられた身体はスポーツをやっていることが一発で分かる。
「この住所に、じゃあわりぃけどクリーニング頼めるか。後、ジャージで帰りてぇからわりいけど」
「あ、はい!」
どうぞ。何の躊躇いもなく家の門を開くと少年は硬直した。
そして、まるで機械音を奏でるようにを見て、直ぐに自らの足を進め、郵便受けの上に書かれた彼女の苗字を見……静かに笑い出した。
「なんだ、お前か」
「えっ、えっ」
「俺が探してたのはお前だったのか」
意味わかんね。
笑った男の顔は、見覚えなどなかったけれど――どこかで。
はどこか、あの時に出会った少年と似ているような感覚に陥っていた。
笑って告げる再会の言葉はどこか遠く、それでいて懐かしく……。
そうして、彼と出会って、別れてから8度目の夏がやってくる。
2012.07.15