どうして、と君は言う
彼の背中を見ているのは、辛いことだ。けれど、目を背けることも出来ない。
にとっての世界はとても狭いもので、彼の背中を見ることで世界を見ることに繋がっている。
ボールが飛んできて、それをワントラップで前線に送ると、がくりと体が崩れた。
……次にが目を覚ましたときには、真っ白の見知らぬ天井が目に入る。
どこだかも分からず痛む体を必死に起こせば「何で黙っていた」と実に不機嫌極まりない声が聞こえてきた。
「……ガゼル様」
「聞こえなかったのか、」
何故黙っていた。妙に足音が耳に響く。
ぐっと唇をかみ締めて「申し訳ありません」とどうにかして言葉にすればそうではない、と冷たい声が降って来る。彼の言葉は氷のようだ。
氷が飛礫になったように身に突き刺さってくる。
ひんやりとした手で「お前は馬鹿ではないと思っていたのだが」と頬に触れながら彼は言う。
妙に近しい状態で思わず身を退けば「暫く休め」と額を軽くはたかれた。
「……余り心配をかけるな」
「……はぁ」
「分かっていないくせに気を抜けた返事をするな!」
「は、はい、ごめんなさい」
私は練習に戻る、とすたすたと足取りを速め、彼はそのまま扉を閉めていった。
まず、ここがどこなのか彼女は聞きそびれたことに気付いて「しまった」と己の失態に気付くが、それ以上に今起きた出来事を脳で処理する際に一つの疑問が引っかかる。
心配をかけていたのだろうか。その心配はどういう意味なのだろうか。
……答えは分からない。そして、望んだ答えではないことも分かる。
それでも、いいのだ。
今の彼は、誰も見ていない。お父様しか見ていない。それがいいことか悪いことかはには分からない。それでも――いいのだ。
「……?」
良いはずなのに。
どうして、涙が出るのか、彼女には分からない。
――
2010.02.16