「見せてみろ、痛いんだろ?」
ばき、と鈍い音がした。
痛みが走るよりも本当に大変なときは「やばい」と思うのだという。
このときもまた、まずい、と他に漏れることなく同じように痛みより先に別の心配をした。
案の定左膝に違和感を覚え、微妙に伸ばすとありえないほどの痛みと同時に「まずい、やばい」と危機感を覚える。
「おい、大丈夫か?!」
彼女を呼ぶ声がする。
盛大に後頭部をぶつけてしまったので後頭部も揃って痛い。膝を動かさないようにしながら起き上がると、困惑した顔のヒートの顔があった。
げ、と思いながらも「生きてる」とだけ返し、首を僅かにコキっと鳴らす。接触プレーから、打ち所が悪かったのだろう。
これは足をやってしまったのかもしれない。打撲か捻挫か下手をすれば骨折か。頭の中を考えだけがぐるぐる巡る。
「……立てるか?」
「何この手、心配してくれちゃってるの? 点数稼ぎうざっ」
そっと差し出された手を振り払い、何食わぬ顔で立ち上がろうと膝を立てる。右は大丈夫だ。左は添えるだけ。出来るだけ体重負担をかけないように立つと、をじっとヒートが見据えている。
彼女は彼が苦手だ。彼はいつも目ざといからだ。バーンのように馬鹿正直の直球型であればいくらでも受け流すことは出来る。
けれど彼はそうではない。卑怯な人間だ、と僅かに思う。
優しさなんてものを貰っても何も自分には返せないのに、彼は昔から変えようとはしない。
気付かないふりを繰り返し、彼女は何食わぬ顔で歩き出す。足を踏みつけるたびに体を引き裂くような痛みが走る。
まずい。
とても、まずい。
「……」
「何、まだなんかあるの? 用事もないのに呼ばないでくれるぅ?」
「――足、庇ってるだろ」
何を言っても彼は食い下がってくる。鬱陶しいな、と突っぱねても、ウザイといっても、彼はやめることがない。そして、最終的に彼には根負けしてしまうのだ。
昔から体が弱かったからそういうことには分かるんだよ、と諭される様な笑顔を浮かべて彼は言う。
「はい、見せる。痛いだろ?」
「痛くないし」
「湿布張っとくけど、明日も痛み引かなかったら病院行き。今日は見学」
「げっ」
冗談じゃない。文句を言おうとすればそれを遮るように「駄目だからね」と返されてしまう。
……既に、見抜かれている。
「……めんどーくさーい」
「はいはい」
「ヒートのばーかばーか」
「はいはい」
「ばーかばーかばーか」
馬鹿。何度も何度もその言葉を繰り返す。気付け馬鹿、アホ。鈍感。それらをこめて馬鹿、ともう一度彼女が繰り返せば「をいつも見てるから調子悪いときぐらい分かるよ」と何食わぬ顔で彼は言い切った。
意味が分からない。
彼女は一気に顔を赤らめたが、ヒートの表情は変わらずに「じゃあ俺は戻るな」と言い残し、そのままフィールドに戻っていった。
「……何言ってんの? 馬鹿じゃないの? ばっかみたい」
それでも、心臓を鷲掴みにされたのは事実で、どんなに悪態をついても顔が熱いのは確かで。
はそのまま体を小さくさせて「ヒートのばーか」ともう一度だけ、彼に対して呟いた。
――
2010.02.16