「おい、
」
「おおうー?」
名前を呼ばれると直ぐに肩を掴まれたのでは
体を捻りながら振り返る。そこには帝国の二軍メンバーがずらり、と並んでいて彼をじっと見据えていた。
不機嫌そうに彼らの中央に居た少年が恐らく首謀者なのだろう。ぼんやりと
は
そこまで把握すると肩を痛いくらいに掴んでくる手を振り解き、にこやかに
愛想良く笑顔を浮かべた。
決して「歓迎ムード」とはいえないその空気を察しながらも取りあえずは目的を聞かなければ話は始まらない。
「なんだ、お前ら。サッカー部じゃん。なんか用事?」
「……お前、聞いたぞ」
の
質問は却下された。シカトすんなよと内心ツッコミをいれたが、それ以上に印象深い中学生にしては低い声にへえ、と小さく
は
何やら感心してしまった。
無理矢理搾り出しているのだろう、ドスを効かせるにしては迫力不足な少年達には
少しだけ首をかしげた。
彼らを怒らせるようなことをした覚えはここ最近はない筈だ。日ごろの行いが彼らを苛立たせているのは承知の上だが、はて、何かしただろうか。
「何を?」
「帝国と雷門の試合の後、鬼道さんに話しかけたそうじゃないか」
「ああ」
そこで漸くは
合点がいった。そうだ、この少年達は二軍の中でも鬼道に特に傾倒している人間達だ。鬼道を慕い敬い彼の背中を追いかけている。
が
鬼道に話しかけたのは偶然で、鬼道が
に相槌を打ったのもまた偶然だ。普段彼らは交友関係を持っていたとしてもサッカー部のキャプテンと、サッ
カー部の裏切り者という肩書きが其々にある。
少年は変わらずに
を
穴が開きそうなほどに鋭く睨みつけ、無言で訴えてくる。彼の隣に居る少年達もまた、一様に重々しい雰囲気を醸し出していた。内心
で
は
皮肉るように嘲笑したが、それを表に出すことは流石にしない。すれば間違いなく自分が殴りかかられるのは目に見えていた。
ポケットに手を突っ込んでいた手を離して頭の後ろで手を組み直し、煉瓦で出来た植え込みと地面の敷居に腰掛け「偶然だよ、グーゼン」とありきたりな言葉
を紡ぐ。
「ふざけんな!偶然で鬼道さんがお前なんか相手にするわけないだろ!」
「でも偶然は偶然だしなぁ」
何気に酷いことを言われているのだが
は
気にするそぶりはない。足をぶらぶらと自由にさせてあれやこれやと文句をつけてくる男子と会話を交わす。どう
やらリーダー格一人の犯行で残りはコバンザメのようについて回るだけのようだ。
いい加減にしろと胸倉を掴まれたとき、恐ろしく何かが壁に強打される音が響き渡った。一瞬の出来事とはいえ、
も、
またその男子も肩をびくりと震わせ
音のした方向を振り返る。
校舎裏なんてありきたりな場所ではなく、目立つ場所で問題を起こしていたこともありどこぞの教員かとも思ったが、その正体は違った。独特な、日本人らし
くない銀色の髪。オレンジ色の独眼。眼帯で隠されたもう一つの目はどのような色で彼らを見ているのかは分からないからこそ恐怖感をあおる。
佐久間さん、誰かがそう呟いた。
佐久間次郎。外見とは大分ギャップのあるその男の姿にリーダー格の少年は脅える。それはそうだ、佐久間は鬼道の右腕と称されるほどの参謀格だ。鬼道、佐
久間、源田、辺見。帝国の中心人物とその三本柱といえば彼らを指す。鬼道の右腕、キングオブゴールキーパー、そして周囲とのコミュニケートの出来る辺見。
「三本柱に睨まれたら最後だと思え」という逸話が残るほどにサッカー部内では絶対権力者の一人とされている。……が、
に
とっては関係のない話だ。
佐久間の右手には教員に渡されたのであろうノートの山があり、それを打ちつけたのがよく分かるぐらいに曲がっている。
「何をしている、お前ら」
「これ、は――」
「……俺は、何も見ていない」
え、とリーダー格の少年が聞き返すと、彼の隣にいた彼のコバンザメの一人が「見ていないうちに去れってことだろ!」とぐいぐい少年の腕を引っ張っる。ど
うやらリーダー格の少年のおつむは余り回るほうではないらしい。
掴まれてぐしゃぐしゃになった胸倉を整えて、ふうとため息を
が
ついているうちに少年たちは去っていってしまう。不幸中の幸いというべきだろうか。何
というんだったか、地獄に仏だったか。思わず内心でそんなことを
が
ぼんやりと考えていると佐久間は腕を胸の前で組、じっと
を
見据えたままだという
ことに気づく。
へらりと笑顔を浮かべて立ち上がると一瞬で空気が更に凍りつく。しかしあえて・空気を・読まない(これを源田に「AKYだ」と称されたことは少々不満だ
が)
は
口元を緩ませてよう、と片手を上げる。
「ありがとなー佐久間」
「別に、お前を助けたわけじゃない」
ぴしゃり、と捨て去るようにいった言葉に違いない、と
は
へにゃりと笑い返すことしかしない。
の
その笑いが佐久間の苛立ちを増す原因以外の何物でもないのだが、佐久間の考えとは真逆に
は
曖昧に、気楽にへらへらと笑い続けている。余計にい
らだって仕方がない。米神に指を添えて、はぁ、とため息をつくとどっと疲れが押し寄せてきた。
を
じろりと片目で睨みつけてみても、彼はどこ吹く風だ。
「……
」
「おう?」
「お前なんか嫌いだ」
助けた上での容赦のない直情的な、真っ直ぐな嫌悪感。いっそすがすがしさすら感じられる。思わず
は
笑ってしまった。ああ、もう、本当にこいつって、
馬鹿だ。馬鹿正直だ。
彼が
を
嫌う理由は先程の少年たちと同じだ。
に
だってそれぐらい分かる。だが、彼は精一杯虚勢を張って、彼らと同じことはしない。鬼道というカリ
スマに見合うような参謀の姿を「あろう」とする。
苦労して胃に穴があきそうだ。頬杖をついて
は
頭のてっぺんからつま先まで見て、ふー、とため息を小さくこぼす。鬼道という少年は確かにカリスマのあ
る、華やかな少年ではあるが――何をあそこまで盲信的になるのだろう。結局のところ、彼だって同じ“中学生”なのに。
……そこまで考えて、はた、と
は
あることに気づき、自嘲気味に笑った。
よく言う。逃げ出した自分が言えた義理ではないのだ。一番の裏切り者は「たかが中学生」の意見を無視して自分の意思を貫き通した頑固で、我儘な「中学
生」の主張なのだ。
佐久間は僅かに笑った
に
気づき、苛立ったように眉間に皺を更に寄せた。
「お前なんか、大嫌いだ」
「……なぁ、俺もそう思う」
のっそりと
は
佐久間に近づくと佐久間の頭を思い切りわしわしとまるで犬か何かをなでるように撫でて、思い切りごつん、と頭突きを喰らわせた。若干頭
が痛いのと、星がちかちかと見えた気がしたが、あえて無視だ。
痛さに涙目になりながらも睨みつけてくる佐久間に、
は
にい、と今度は隠すことなく笑顔を浮かべる。次の瞬間、彼は頭を下げた。
「あいつのこと、頼むわ」
「……お前に言われるまでもない! この石頭!」
思い切りがつん、と
の
頭が殴られる。
痛ぇーと渋い顔をすれば当たり前だ馬鹿と一蹴され、そして佐久間はすたすたと歩き出した。素直じゃない奴、と頭を軽く支えて
は
僅かに笑ったが、それ
を言葉にしたら益々怒られそうなので口を噤むことにした。
彼は、
の
ことが嫌いだ。同じポジションで、同じように帝国に入って、同じように鬼道とともに歩いてきた。けれど、鬼道と袂を分かった
と、
それで
もなお彼について行く佐久間。似ていて、違う。
――なので、佐久間は
が
嫌いだ。
しかも、
と
きたら何食わぬ顔で未だに佐久間を筆頭に自分を毛嫌いしている人間の神経を逆なでするかの行動に出、へらへらと関わってこようとする。す
べてが気に食わない。すべてが大嫌いだ。
けれど。
ああ、けれども。
「くそっ」
何故あの時助けたのか、と聞かれればへらへらと笑って、負の感情を受け止めている
に
腹が立ったのと、自分ではない誰かが
を
罵倒しているのが気に
食わなかったからだ。
その感情を「友情」というには聊かささくれた、曲がったもので、佐久間自身けっしてそれを認めようとは微塵も思わないけれど。
でも。でも。けれども。
「あんな奴のためにノートが曲がったじゃないか!」
馬鹿馬鹿しいほどの、子供っぽい感情。嫉妬と羨望と友情と、何やかんやなのだろう。
……それに気付かないふりをしながら、佐久間は「次会ったら殴ってやる」とぼそりと呟いて、重たいノートの束を抱え直した。
――
[Dreamer's Friendship Party!]様に提出作品。