そんな君さえ愛おしい
「鬼道君って音楽とか出来そうだよね」
ストップウォッチの紐で遊んでいた
の何気ない言葉に鬼道は目を丸め、一瞬反応が遅れた。
すぐに咳払いを返し言っている意味がわからないと彼女を見据える。それでも彼女は紐をぐるぐると人差指に巻いてはほどき、巻いてはほどきという何てこと
のない遊びを続けながら少しばかり笑った。
「そのまんまの意味。ヴァイオリンとか出来そうじゃない?」
「……お前は俺を何だと思ってるんだ」
思わず額に手をやるとクスクスと
は笑い、「だって跡取りなんでしょ?」と何気なく尋ねた。彼女にとっての金持ちはイコールで音楽に結ぶ付くらしい。何
を言い出しているのやらとあきれれば
はくるり、と持っていたストップウォッチを回して分かってないなぁと苦笑いを浮かべた。
「鬼道君がヴァイオリンとか、あとなんだろ……チェロとかピアノとか、やってたらかっこいいかなーって思っただけだよ」
「基準が分からん」
はやはり笑ったままで、鬼道はため息をこぼし会話を打ち切ろうと立ち上がった。
けれど彼女は、何かに気付いたかのように手をたたくと「ああそうか」と納得した声を上げる。何なんだ、さっきから。
彼は彼女をにらみつけると、郁はふふ、と軽く笑って「鬼道君はいつでもかっこいいか」と至ってのんきな声で言い放った。
……自覚が彼女にはなかったのだろう。何となく言った言葉に思わず鬼道は「な」と小さく声をもらし、その頬を赤らめた。直接的すぎる言葉にはあまり慣
れていない。
は首をかしげ、ゆっくりと自分の言った言葉を反芻させると「あ」と自分の言った言葉の意味を悟ったらしい。見る見るうちに顔が赤くなっ
てい
く。
「ご、ごめ――…今の聞かなかったってことで!」
「あ、おい、
!」
「ダッシュの測定後にしてー!」
だだだだ、と走り抜けた彼女の傍らにたまたまいた風丸の髪がぶわ、となびくほどの速さで彼女は走り去って行く。
取り残された鬼道は困惑したように口を抑えると、思い切りため息をこぼした。
―― ああ、まったく、彼女はどうしていつもああ自分の考えたいたことの斜め上を行くんだ!
どうしようもない恥ずかしさを隠すように彼は口を押さえていた手をどかし、その手をゴーグルで隠れている目に覆う。知らない間に振り回されている自分が
いて、それを悪くはないと感じるなんてどうかしている。
はぁ、とついた溜息は恐ろしいほどいい天気の空に吸い込まれていった。