「……ファイア、トルネード!」
轟々とボールに炎が取り巻かれ、豪速でネットへ突き刺さる。しゅう、しゅうと炎が燃え尽きていく音。ボールを蹴るのはこれが最後だと彼は決めた。最後のボールの、最後の技。これで、サッカーは終わりだ。
ぐ、と拳を作り思い切り溜息を零した。
「おーおーすげぇ、すげぇ」
ぱちぱちぱち。乾いた拍手音に豪炎寺はす、と振り返る。彼の決意などものともしない、気の抜けたような声。そこには見覚えのある顔がいた。少年サッカー大会で何度か顔を合わせたことがある。大会でフィールドを駆け抜けていたところも見たことがある。
名前も知っているが、彼の制服姿は少し違和感だ。木戸川清修の制服を着た豪炎寺を見た彼もまた同じことを考えているのだろうか。制服をきちんと着なおす豪炎寺にはにい、と笑って持っていたサッカーボールをひょい、と拾い上げた。
「久しぶりだな、豪炎寺。俺のこと、覚えてる?」
「……」
「おお、正解」
去年のフットボール・フロンティア、見たよ。サッカーボールをころころといじくりながらは言う。直接御互いがトーナメントでぶつかったのは小学校五年以来だ。約二年ぶりの再会だというのに、情緒も何も無い。はにこり、と笑うとそのボールをワンタッチで頭の上に乗せた。コントロールセンスは天才MFと言われる鬼道ほど高くは無いが、彼は実にサッカーを楽しそうにしている。
豪炎寺は思わず目をそむけた。ライバル。そう思っていた時期もあった。けれども、彼はもうの顔を見ることは出来ない。
「なんで、去年の決勝、お前出なかったんだ?」
「……」
「木戸川の、エースとして準決勝勝ってたし、チームでもめたようには見えなかったけど」
劈くような、の言葉。耳鳴りのようなものさえ聞こえてくる。何も知らない、ただ「一緒にサッカーお前とやりたいなー」と呑気に笑うに腹が立った。
サッカーを愛している。
サッカーが大切だ。
けれど、そのサッカーで大事な物を傷つけてしまった。そんな折に、父が病院を変わる事になり、妹もその病院に入院させることになった。木戸川清修の三兄弟や西垣はどう思うのだろう。彼らと向き合うことすら出来ず、飛び出した自分を待っているものは何なのだろう。
イメージのわかない状況の豪炎寺に、は淡々と言葉を続ける。
「俺、お前のサッカー結構好きだったんだけどな」
「……それなら、お前は何故公式戦に出なくなった?」
核心をついた言葉だ。
一年前のフットボールフロンティアで豪炎寺が落胆した理由は帝国学園に入ったというの噂が一切どこにもなく、彼の姿などどこにもなかったことだ。帝国学園といえば名門中の名門。四十年間の無敗を誇る学園だ。そして、の事を聞けば帝国の人間は言う。「あいつはサッカー部をやめたよ」と。
豪炎寺は彼をぎろり、と睨むとはうん、と小さく頷き返す。
「俺は、サッカーやめてないよ」
「……」
「帝国のサッカーが俺にはあわなかった、そんだけ」
「言い逃れだな」
お前だって、逃げただけじゃないか。
厳しい言葉には笑っていた表情を一瞬だけ凍りつかせた。けれど直ぐに「そうだな」と少しばかり苦笑を落とす。帝国学園の制服を身にまとって、両手を肩あたりまで上げて上下させ堪忍したように溜息を零す。
彼はひょい、と高くボールを蹴るとそのボールを片手でキャッチした。
「でも、俺はお前とそのうちまた、サッカーをやれる気がする」
「……俺は、もうサッカーをやめた」
じゃあな。
振り切るように豪炎寺は夕日に向かって歩き出した。
その背中をぼんやりと見つつ、はまたそのボールをぽーん、ぽーんと蹴りだす。口元が歪んで笑っているように見えるのは恐らく気のせいではないだろう。
やがて、彼はぽつりと、豪炎寺、と彼の名前を呼んだ。
「馬鹿だな、そう簡単に切り離せないもんだぜ」
どんな事情があるのかなんては知らない。
豪炎寺もまた、がどうしてサッカー部をやめたのかなんてことを知らない。
ただ二人の少年は其々の事情の上でサッカーから一度離れた。それでも、諦めきれない一人の少年は一人だろうと相手が誰であろうと結局サッカーボールを蹴っている。もう一人の少年は――その道を振り返らない。
けれど、この二人の少年がひとりの更なるサッカー馬鹿に引きつけられて、結びつき再びサッカーへの情熱に火を灯すのはそう遠くない日のこと。
BUMP OF CHICKEN、同曲名よりイメージ