運命というものは人が生まれたときに定められているのだと言う。
その教えを聞きながら、少年は「ああなるほど」と妙に納得した。こんなにも苦しいのがそれが運命なのだということを理解したが所以。ではそんなことを決めた運命に対してどんな言葉を言ってやろうかとも悩んだが、結局のところ言葉はでてこなかったのでやめた。
ヒロトは隣で真剣に考え込む彼の言葉を聞きながら「ふうん」とだけ返す。まさにどうでもいいという単語が似合う状況だったが、少年は気にも留めず暫く再び考え込む。
「でもさぁがそうしたいなら、いいんじゃない?」
「ほんに、問題なか?」
「うんうん、問題なか」
持っていた空っぽになったマグカップをひょい、とヒロトは持ち上げて少年と己のそれにオレンジジュースのペットボトルの中に入っている蜜柑色のそれをだばだばと注いでいく。
「まぁ、のみなよ」
「……すまん」
「っていうかさぁ、なんで笑わないの?」
仄かにヒロトは笑った。随分と皮肉めいたものに聞こえるが彼に悪気はない。単純に思ったことを口にしただけだ。眉根あげて、少年はヒロトを見つめた後に「そうか?」とだけ返す。笑わないのは今に始まったことではないし、だからといって無理して笑う必要も無いのだとこの園の園長は彼に言ってくれたのだ。無理に変わる必要も無い。
「……運命なんてもん、興味ばなか。ばってん……親父殿が悲しむの嫌ばい」
「あ、姉さんだ!」
「……おまやー、人の話ば聞かんったいね……知っちょったけど」
姉さん、とマグカップをテーブルにおいてぱたぱたと走っていったヒロトを横目に、少年はぐっとオレンジジュースを飲み干すとふーと溜息をつく。
運命。宿命、決まったこと。そんなもの、どうでもよかった。――そんなものに圧倒なんかされてたまるか。
ぐ、と拳を作ればてとてととブルーの髪をした少女が少し急ぎ足で此方にやってくる。青い瞳と、白いメッシュが目に入って、彼女は小さなブルーのマグカップを片手にくいくいと彼の服を引っ張った。
「どうした?」
「……オレンジジュース、私もいる」
「ん」
注いでやれば、ぱぁと笑って「ありがとう」と少女は笑った。お礼にとばかりに彼もまた、オレンジジュースを注いでもらう。
……実のところ、彼はヒロトに入れてもらう前から渋めの緑茶が飲みたかったのだが、彼らの厚意に文句を言うわけでもなく、入れてもらったものをちびちびと彼らと並んで飲んでいるのである。おいしいね、と少女が笑ったので「うまか」と小さくうなずき返しながら、彼も出来るだけ笑ってみるように心がけてみた……がうまくはいかなかった。
□
「」
「……なんだ?」
テーブルの上に置かれた雑誌をぱらぱら捲りながらグランの話しに耳を傾けているとコップに並々と注がれたオレンジジュースを出される。何の真似だとちらりと顔を上げればグランはにこやかに笑顔で言った。
「なんか、コンビニ行ったらお前を思い出したから買ってきた。昔オレンジジュース凄い好きだったよねえ」
「……別に嫌いじゃなかったがお前やウルビダが散々俺に飲ませてきたんだろう」
「お前がどうやったら笑うのかな、って昔から考えてただけだよ」
数年を経て貰った答えには僅かに目を見開いた。
そんなくだらない事を考えているなんて、とも呆れたくなったがウルビダといえばこのチームの副キャプテンにもふさわしくチームを牽引する存在だ。グランは全ての頂点にたち、たちの父に「別格」で愛される存在。
彼ら二人の幼き行動を想像するとにてもにつかぬ行動に、少しだけ心が痛んだが、すぐに冷えていく。一口だけ、まるで甘酒を舐めるように舌をちろりと動かして彼は飲んだ。なみなみと注がれているみかん色のオレンジジュースは少しも味さえ変わらず、そこにあり続ける。
「……」
「うまいだろ?」
「…………ああ」
オレンジジュースは、昔よりもどこか甘く感じた。けれどそれさえも矢張り美味いと思うのは彼らと飲んだ思い出があるからなのだろうか。少しばかりそんな答えに行き着いたが僅かに首を横に振り、そのまま勢いよく一気に煽り飲み、コップをテーブルにだん!と音を立てておき、口をぬぐった。
――決戦のときは、近い。