レンズ越しから見える彼らに何度も何度もシャッターを切っていく。いち早くボールを取ろうとする姿、苦々しい顔、ゴールを必死に守ろうとする姿、奪おうとシュートを打つ姿。一枚一枚を記憶に残すように写真を撮っていく。
―― やがて、長いホイッスルが吹かれて試合が終了した。
一度の試合に一体何枚の写真を撮っただろう?望遠レンズをはずし、ケースにしまう。カタカタとカメラケースが揺れるが、それに応じて四つ転がったフィルムケースもケースの中に更にしまいこんだ。後はこれを現像すればいい。
が学校の鞄に全てを詰め込むと一人の少年が駆け寄ってきた。
「!」
「ヒロさん。試合お疲れ様」
「もう帰るのかい?」
「うん、現像したいし」
彼は一言だけ「ふぅん」と言うとちらりと視線をフィールドに戻した。
21人の少年たちが息を整えながら何かを話している。この中から、5人落とされるのだ。16人という枠を奪い合う。特にFWは人数が多い以上ヒロト自身も――残れる確証があるわけではない。
がし。
気付けば、彼女の手首をセーター越しから掴んでいた。それに驚いたのは間違いなくヒロト自身では状況が理解できず首を傾げじいとヒロトを見つめた。
「ヒロさん?」
「……あのさ」
「うん」
「……もう少し、見ててよ。……俺を」
言葉にするのは難しい。ぼん、と顔を一気に赤らめたに自分の言った言葉を理解するのにまで理解が要った。今自分は何を言ったのだろう。慌てて口元押さえて「そうじゃなくて」と言葉を漏らす。
何を言っているのか分からない。混乱しながらも「俺が受かるかどうかちゃんと見ててよ」と彼は言う。は何度か瞬きをすると「どうして?」と彼に問い返す。見ていても、いなくても、結果は変わらない。
ヒロトは手を離しながら「それはそうなんだけどさ」と苦笑をしながら空多角を見上げた。雲の流れが速く、柔らかい風が吹いた。
「俺が落ちるかもしれないだろ? それでも、が見てれば格好悪い姿見せないように出来るし」
「……ヒロさん」
彼は本当に欲しいものは言葉にしない。
父の愛にしろ、楽しいサッカーも、仲間も、彼は言葉にはしない。全ては「誰か」のために生きて、「誰か」のために自分の気持ちを捨ててきた結果なのだろう。に対しても、どこか強く押し切れない部分がある。普段は彼女を翻弄するくせに、一番言いたい言葉は彼の心の中に推し留められて結局言葉になることなく閉じ込められてしまう。
は少し不満なのかカメラをぎゅうと握り締めた。
「……ヒロさんって、そういうところ、本当に鈍感だし」
「え?」
「……格好悪くても、ヒロさんはヒロさんだから関係ないし」
「……、言ってる意味がよく……」
「二回は言わない!」
ぷい、と彼女は顔を真っ赤にして顔を俯かせる。ヒロトは困惑しながらも、覗き込むようにしての名前をもう一度呼んだ。落ちる。受かる。そのラインをわたろうとしているのはヒロトだというのに、にはどんな声をかけていいのか分からない。ヒロトだけではない、円堂に対しても――上手く物を言える自信がなかった。
「……それは、どんな俺でも好きだ、って取ってもらってもいいわけ?」
「知らないっ」
じゃあ、そう思っておくことにするよ。
ヒロトは小さく笑うと、俯いたままの彼女に「俺も受かればいいなぁ、っては思ってるよ」と言いながら彼女の頭に顎を乗せた。重たい、とばたばたとがもがくので直ぐに体をどかしたが「も、俺を受かるように祈っててよ」と手を振り、背を向けた。徐々に小さくなるヒロトの背中を見ながら、小さく「うん」と彼女は呟く。
その呟きが聞こえたか、聞こえなかったかは分からないが――ヒロトの口元がうっすらと緩んでいるのを、円堂が見かけて「機嫌良いな」と話しかけると彼は「楽しいサッカーが出来たからね」とさらりと言い流す。
どくん。どくん。
徐々に心臓の音が大きくなる。胸倉をぐっと掴み、結果を待つ。
運命の時間まで、後少しだ。