待ち合わせの時間なんてものはあってないようなものだ。は大抵15分前には来て、鬼道が来るのは大抵時間通りには来ない。その微妙なすれ違いにいつも溜息と苦笑を混じらせて終わらせてしまうのはの甘さでもあるのだろう。
「しっかしいっつも15分以上遅れて何してるの?」
「……フォーメーションのことを考えたりだとか」
「そこでもサッカー? ほんっと好きだね」
ぎゅう、と手を繋ぎ再び空いた手でぶらぶら表現しながら「マイペースだよね」とは笑った。
要するに惚れたもの負けといったところだろう。今更だ。通り過ぎた高校生らしきカップルが何かを言っていたが、耳に届くことも無い。
「マイペースというのは円堂みたいな奴のことをいうんだ」
「えー、どっこいどっこいだよ」
似たもの同士って言葉が世の中にはあるじゃない。そう笑えば軽くこん、と彼の手がこぶしに変わって小突かれる。それが照れくさい時の彼の態度なのは十分は知っている。そういうところも好きな要素の一つだ。ぶっきらぼうなくせに手だけは握り締めたままなのは結局優しくて不器用な性格の表れだろう。
「鬼道君って考えわかりにくいよね」
「なんだ、唐突に……」
「たまには正直に言ってもいいと思うけどなー?」
「正直に言ったところでお前は気味悪がるだけだろ」
酷い言い草だが、実際のところそうなのかもしれない。にとっての鬼道はこういう性格だ。不器用で伝わりにくいやさしさを持っていて、ついでにいえば格好つけだ。面と向かってちゃんと言葉にしてくれる確率はかなり低い。それは初めて出会ったときから今に至るまで現在進行形で変わらない。
好きという言葉も、どう思っているかも、伝わりにくい。差し込んで来る木漏れ日は暖かく、握り締めた手が光にあたって益々暖かくなる。
「意地悪だよね」
「そんなことはないだろう?」
どこが、とは笑ったがどこが意地悪なのかを言わないあたり自身も十分に意地悪なのだが、鬼道は結局苦笑だけでそれ以上は言わない。
互いの性格はお互いに理解してるつもりだ。面と向かって彼がどう思っているかを言葉にしないことも、鬱陶しいくらい噛み付いて、率直な意見しかいわないのことも、御互い「変えろ」といったところで変わる性格じゃないことも。
「でもさ」
「なんだ?」
「そーいうところも好きだけどね」
「なっ?!」
言わないから逆襲されることもある。彼女らしいといえばらしく、彼らしいといえばらしい。
「ということで、鬼道君はどうなの」
「……嫌いなら一緒にいないし手も繋がないだろう」
「そーだけどね」
彼は少し考え込んだ後に、ぱ、と彼女の手を離した。その微妙にできた隙間が少し物悲しくもあったが、それ以上に考えることを許さないとばかりにぎゅう、と痛いほどに抱き寄せられる。何事か分からず思わず混乱するに「これでいいだろう?」と耳元で囁かれ、彼女の思考は停止した。
「な」
「……全く、こんなこと逐一聞くな」
「た、偶にぐらい聞きたくなるよ!」
「ほら、さっさと行くぞ」
彼は知っていてやっているのだろう。随分な愉快犯だ。確信犯に違いない。
「―― 少しくらいドキドキしてるの気付け、ばかー!」
「見なくたってお前が何を考えてるのか分かるに決まってるだろう」
振り回されながら、それも悪くないと結局再び一緒に手を繋いで歩き始めるこの二人に木漏れ日が再び差し込んでくる。
再び歩き出した彼らは同じように談笑を交わし、時には言い争う。それでも尚繋いだ手を離さなかった。