基本的にという人間を帝国のサッカー部に所属している人間は嫌う傾向がある。特に一年生にはその傾向がとても強い。由々しき自体なのだが、実際当人は特別意識している様子もなく、今もこうしてDSのタッチペンを片手に画面を連打している。
「……」
「何ー? あ、くそ、出てこねぇ」
ココココココ。
タッチペンが画面を叩く音だけが部屋に響く。はあ。思わず源田は溜息を零した。
色々帝国内でも問題を抱えているというのに、当の本人がまるで意識をしないせいで悪化の一方をたどっているということに対して彼はどう思っているのだろうか。恐らく何も考えてないのだろう。……そこに行き着いた時点で「ありえそう」でがっくりと肩を落としたくなった。
「源田ぁ、コインが見当たねーんだけど」
「叩いて探せ、あるだろ」
「えー謎ばっかり出て来る」
教授、謎はいいからコイン見つけようぜ、なんて愚痴りながらコインを探してぐるぐるコツコツ歩いて叩く。その繰り返し。
サッカーはどうしたサッカーは。思わず呟けば「この雨でやれってか、無茶言うな」とわざわざ一旦DSを置いて身振りを加えて彼は言う。指がくるっとどこかの探偵のように動くあたりわざとらしい。
そもそも雨の中でもサッカーの試合というものはやるものだし、雨、雪といったコンディションが悪い状態でも勝てるサッカーをするということは「勝つため」には必要なことだ。
……だが、それを言っても彼は気にしないだろう。源田自身がここにいるのが理由に繋がる。その「よほどの雨」だったのが運の尽きといってしまえばそれっきりだ。
帝国のサッカー部は初めに鬼道ありき、影山総帥ありきだ。
故に彼ら二人に対しての異分子は帝国には不必要。要らない存在。という少年はこの「異分子」に該当するのだろう。そして、彼は恐らくそれを察していて、あえて知らない振りをしている。
帝国のサッカーは全てがしっかりと規制された、まるで軍隊のようなサッカーを行う。組織プレーを乱す個人プレーは基本的に控えるべき、という考えが強い。組織で全てを潰していき、相手に個人プレーをさせない。圧倒的力に屈服させる。
その帝国のサッカーの軍門を降ったくせに、彼は去っていった。源田には分からない。分かるわけが無かった。
「お前はそれの何が不服だったんだ」
「あーくそコインー」
「……人の話を聞け」
が、と首を動かされる。少し鈍い音がしたが、源田は気にしないことにした。
が「痛ぇよ」と文句を言ったがそれを他所にDSの電源を切る。あああ、と更に悲鳴が聞こえたがこれもまた無視だ。
「馬鹿! 源田マジ馬鹿超馬鹿何してんだよ?! 三時間掛かってコイン集めまくったのに!」
「謎を解け謎を」
がっくりとうなだれながらもしぶしぶDSを置いて胡坐をかきなおしたにはぁ、と源田は溜息を零した。
「お前、この前雷門との試合見に来てただろ」
「……なんのことかなぁ」
「とぼけるな、どういうつもりか知らんが余りチームを煽るような行動をしないでくれ。お前は唯でさえ目をつけられやすいんだ」
「あ、何、心配?」
チームと友人が揉めるのが、なのか、チームに悪影響を及ぼすから、なのか、はたまた自身がまた他人に疎まれるからか。
源田は「ノーコメントだ」と言うと熱いほうじ茶を啜った。
「――平気だよ、俺は」
「何が」
「人に疎まれるのはさぁ、それだけ俺が実力あるからだろ? 後俺は部をやめたからってダチまでやめる必要なんかねーと思ってるし」
もう一度DSを起動するとは「俺もお茶欲しい」と言いながらタッチペンを再び転がす。
壮大なBGMが流れる中で「お前は本当に適当だな」と源田が呆れたような溜息を零した気がしたが、は気にしない。
彼は他人の迷惑を顧みない人間だ。天狗になっているといっても良いだろう。けれど確かに彼は惜しみない努力をしていることを源田は知っている。部を辞めて一人で練習するようになった彼を何度か声をかけたが部活に戻るということにだけは首を縦に振らなかった。そのうち鬼道からも「放っておけ」と言われるようになって、彼ら二人がギクシャクと疎遠になっていくのは目に見えて、それが源田には辛い。
「……鬼道と俺は、少なからずお前が帰ってきたら面白いと思うけどな」
「やめろって、俺じゃあ組織をかき乱して終わりだって」
「二週間で辞めたくせによく分かってるじゃないか」
「うるせ」
彼が行きたい場所は何処なのだろうか?
時折源田は疑問に思う。彼はどこも見ていない気がした。
ボールを追いかけて、笑っているがその心はどこかに置き去りにしたように遠いものがある。
「……お前」
「なんだ?」
「……いや」
聞いても、詮無きことだ。意味も何もない。唯の自己満足。
それ以上でも以下でもない。源田ははぁ、と溜息をつきながらほうじ茶を淹れての近くに置いた。
湯気のように、ゆらゆらと気持ちも消えていけばいいのに。そんなことを思ったが――彼と、自分たちの溝が埋まる日が来るのかどうかさえ、源田には分からない。
鬼道は「ほうっておけ」と言っていたが恐らくは彼が最ものことを心配しているだろう。袂を分かったとはいえ、と鬼道には切っても切れぬ縁がある。かたや帝国の司令塔。かたや帝国の異端児、異分子。両極端に居る少年達二人を見ながら源田はもう何度目か分からぬ溜息をついた。
こんなときに総帥が何か言ってくれれば、と思う反面彼はのことをあまり好いているようには思えない。が抜けたときも「愚かな」と一言だけ零し「捨て置け」としか言わなかったような男だ。恐らくは何も言わないだろう。
チームの中には恐らく鬼道がを未だどこかで気にかけていることに対して反発している人間が居る。その溝を埋めるつもりも、当人達同士には毛頭ないことに源田は頭を痛めた。
「……張本人がこれだからな」
「んだよ、今教授頑張ってるんだからほめてやれよ」
「……はぁ」
せめてもう少しが謙虚な人間だったら。そこまで考えて源田は直ぐに首を横に振った。せめて鬼道とがもう少し歩み寄ってくれれば。この考えもまた無意味に終わる。
結局、時間だけが彼らを解決に導いてくれるのだろうか。けれどが辞めてからもう直ぐ一年になる。
……関係は、已然として悪いままだ。
「源田」
「なんだ」
「お前が悩むことじゃねーんじゃないかな」
「……悩ませてる張本人が何を言っているんだ」
ほうじ茶を時折すすりながら、画面をDSに向けたままは言う。
分かってもらおうとは俺は思っていないし、向こうも分かろうとしていないから俺たちはきっと平行線のままなんじゃないかな、と。
それはどう彼が足掻いたところで意味が無いと言う否定の言葉以外の何者でもない。源田は米神を押さええ「そういうわけにもいかないだろう」とだけ返し――お茶請けの和菓子を口に含みながらを見る。
「友人同士がいがみ合ってるの程、胃が痛いものもないんだぞ」
「……あー、そりゃなんか、悪ぃな、いっつも」
分かってるなら善処してくれ。そう源田は返すも、は苦笑いばかりで結局のところそれ以上も以下も何も言わない。
彼らの関係が変わる時は本当に来るのだろうか。
そう悶々とする源田を他所に軽快なテンポの、明るいレイトン教授のBGMがDSから流れていた。
2010.03.02 レイトン作品内からタイトル拝借。